モノクロ
こけて不様な姿を見せることにならなくて良かったとほっとしながら、ショウの腕の中から抜け出て先輩のことを見ると、先輩の真っ直ぐな瞳が私を映していた。
そんな瞳で見られるのは初めてで、ドキドキと速まっていく心臓の鼓動を感じる。
でもそれを悟られないように、私は何とか笑顔を浮かべた。
「先輩、偶然ですね! お買い物ですか?」
「……まぁな。さきこは?」
「あっ、私はちょっとイベントに行ってて」
「イベント?」
「あの、マンガとかの……」
「なぁ、アキ。誰? 誰? 紹介してよ」
「あ、うん。営業部の先輩で」
「えっ、もしかして、さっき話してくれた?」
「うん、そう」
「マジで!?」
さっき少しだけショウにブックカバーのことを話した。
その中で、先輩がいろいろとブックカバーのことで動いてくれていること、そしてエンジェルランドのチケットを探してくれたことも話していて、ショウは会う機会があればお礼を言いたいと言っていたのだ。
ちなみに、エンジェルランドのチケットを私が探すようになったことはランランにはうまく誤魔化すように言っていたけどできなかったらしく、早々にランランにバレてしまっていたという。
ショウは先輩に向かって、頭を下げて挨拶をする。
「アキからエンジェルランドの件、聞きました。探してくださったそうで、本当にご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。ありがとうございました。それにアキが手掛けていた企画でもいろいろ動いてくださったみたいで。直接お礼を言いたいと思っていたので、お会いできて嬉しいです」
「……いえ。こちらこそ、素晴らしいデザインをありがとうございます」
「あれ? 俺のこと知ってるんですか?」
「はい。会社で佐々木さんと一緒にいるところを見たことがありますから」
「そうなんだ! とと。そうなんですね」
敬語が苦手というショウからポロっと素が出て、私はつい頬をほころばせて吹き出してしまう。
するとショウの手が伸びてきて、私の頭をぽんと軽く叩いた。
「アキ、笑うなよ~」
「ごめんごめん。ショウが敬語しゃべってるのってやっぱり気持ち悪いから。ね、ランラン」
「うん、本当に」
「ランまで!」
ランランに向かってぶーぶーと言い始めたショウを横目に、私は先輩に目線を向ける。
「先輩、ショウがすみません。でもショウ、先輩に挨拶をしたいって言ってたから、嬉しかったんだと思います」
「……そう」
「な、アキ。ここで別れよっか。アキも先輩とゆっくり話したいだろ?」
「えっ!? いや、でもほら、偶然会っただけで先輩も忙しいだろうし、私、ショウたちと帰」
「じゃあ、俺たちはこれで!」
「あっ、ショウっ、ちょっと待っ、……ひゃっ」
ショウの行動に慌てて手を伸ばそうとした時、またもや私にドンッという衝撃が襲った。
コミケ会場でも何度も人にぶつかってしまったし、今日はそういう日らしい。
何とか踏ん張ろうとした時、さっきとは違う力強さが私の体を包み込んだ。