モノクロ
「っ!?」
すぐにその腕の正体が先輩だということに気付いた私は、体勢を立て直すのと同時に、振り払うように先輩から離れる。
「せっ、先輩、すみませ」
「……何で避けるんだよ」
「え……?」
「あいつのことは振り払うようなことしなかったくせに」
「先輩……?」
「俺、さきこに避けられるようなこと、何かした?」
「っ!」
「なぁ。何かあるなら言えよ」
「べ、別に何も」
「じゃあ俺の目を見ろよ。最近ずっと、俺と目も合わさねぇだろ」
「!」
ぐいっと腕を引かれ思わず先輩のことを見ると、先輩は怒った表情で私を見ていた。
その表情には傷付いたような苦しげなものも混ざっている気がして、普段は見ない表情に私の心臓が大きく跳ねた。
……私、先輩にそんな顔をさせること、してた……?
「……あの、先輩」
「そんなにわかりやすく避けられたら寂しいじゃん」
「……寂しい……?」
「……寂しいに決まってるだろ」
「……」
その言葉の通り、本当に先輩は寂しげで。
どうして? 先輩には三神さんがいるじゃない。
私が誘いに乗らなくたって、三神さんがそばにいてくれるんだから寂しい思いなんてするはずないでしょ?
……本当に寂しいのは私の方なのに。
……色のなくなったモノクロの世界にいると思ってしまうくらいに。
そう。さっき世界がカラフルに見えないと思った理由なんて簡単なことなんだ。
……先輩がいないから。
先輩がいないと私の世界は色も光も消え失せて、真っ暗になってしまう。
そんな世界、表向きは楽しいと思っていても、心から楽しいと思えるはずがない。