モノクロ
でももう、決めたの。私は先輩から離れるって。
先輩が幸せになれるなら、私の世界がモノクロになったっていい。
先輩の世界がカラフルになってくれればそれだけでいい。
私は前みたいに好きなことに没頭して、少しずつ色を取り戻していけばいいんだから。
今日だって楽しいと思えたんだから、きっとすぐに元に戻ることができる。
私は、大丈夫。
私は先輩に掴まれている腕を振り払い、先輩ににっと笑顔を向ける。
「何言ってるんですかっ! 先輩にはちゃんと一緒に居てくれる人がいるじゃないですか。私なんかに構わなくても、寂しくなんかないでしょ? ねっ」
「は? 何言ってんの?」
「だからっ、もう誘ったりするの、やめてください! 大切な人がいるのに、他の女なんか誘っちゃダメですよ! 大切な人を悲しませちゃダメです」
「全然意味わかんないんだけど。何で急にそんなこと言い出すんだよ」
「意味なんて簡単じゃないですか……。単純明快です」
「……さきこ。何で泣くんだよ。なぁ、さきこ」
「……っ」
笑ってるはずなのに、笑いたいのに、勝手に涙が零れてくる。
「……ダメなんです。今の私が先輩のそばにいたら迷惑掛けることになるんです」
「迷惑って何だよ。俺はさきこのこと、迷惑なんて思ってない」
「先輩が良くても、ダメなんです! 私、先輩には絶対に幸せになってほしいんです。私と二人で飲みに行ったりなんかしたら、三神さんにだって嫌な想いさせることになるんですよ? 自分の好きな人が他の女と飲みに行くなんて、いい気するわけない……。だから私、先輩が好きって気持ちを忘れるまでは、辛いけど先輩から離れようって決めて……、っ!?」
はっと気付いた時には私の口から先輩への気持ちが零れ落ちていた。
咄嗟に口を押さえたけど、後の祭り。
私の目に映るのは先輩の驚いた表情だ。
「……は? え? ……好き?」
「ご、ごめんなさいっ! 今の全部忘れてくださいっ! わ、私、帰りますっ! じゃっ!」
「ちょ、おい、さきこっ!」
先輩が私の腕を掴もうとしたのを何とか振り切り、私は人並みの中をすり抜けて走り出した。
先輩に顔を合わせられない、捕まっちゃダメだという想いだけで、とにかく無我夢中で走っていた。