モノクロ
 
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それからの私は自己嫌悪の塊だった。

先輩に自分の気持ちを伝えるつもりなんてなかったのに、ぽろっと本音を零してしまうなんて、最悪すぎる。

一番しちゃいけない行動だったのに……。

どうしよう。先輩に「あの言葉は冗談なんです」って伝えればいい?

それで私の気持ちを誤魔化せる?

真正面からそんな言葉、今の私に平気な顔して言えるの?

……言える気がしない……。絶対に態度に出る。


「あーっ、もう! 私のバカー!」


「バカバカ」と連呼しながらぽふぽふとクッションを叩くけど、何の発散にもならない。

一緒の会社にいれば、いつかは絶対に顔を合わせることになる。

最近、先輩は新商品の件でよく佐山さんや他の同僚のところに訪れるし、ブックカバーのことだってある。

どうにか気まずくならない方法はないだろうか。

今までと同じように先輩と接する方法は……。

どんなに考えてもいいアイディアが思い浮かぶことはないまま、私は悶々と休日を過ごしていった。




私の心配をよそに、平日はどんどん過ぎていく。

先輩は忙しいのか、はたまた用事がないだけなのかわからないけど、私がいる時には企画部のオフィスに訪れることはなかった。

このまま時間と忙しさが全てを忘れさせてくれればいいのになぁ、なんて都合のいいことを考えていた。



「終わらぬ……」


週末の定時間近に突然佐山さんから言い渡された仕事を目の前に、私は途方に暮れていた。

その仕事というのはカタログの原稿チェック作業で、締め切りは火曜日の朝一。

普段であればオフィス内で一番若い子が行う作業なんだけど、今日に限って私よりも若い子は有休を取っており、月曜の丸1日では絶対に終わらないからと、私が引き受けることになってしまった。

さすがにそれでも無謀すぎると佐山さんに訴えたけど、またもや今日に限って残業をできるのが私しかいないらしく、一人オフィスに残り、カタログの原稿チェック作業を行っているというわけだ。

月曜日は私も同僚も他の仕事が入っていて若い子一人で作業を進めてもらうことになっているから、ある程度は進めておかないと月曜中に作業を終わらせられるかどうか不安すぎる。

カタログの原稿はかなりの量があり、自分のデスクでは作業にならないと、私はオフィスの真ん中にあるテーブルに移動して作業を進めていた。

目がちらちらする作業の連続に、テーブルの上にある原稿を引っ繰り返したい衝動に何度も駆られているけど、そんなことをすれば仕事が増えるだけだと何とか耐えている。


「っていうか、何でこんなギリギリに依頼してくるのっ! くっそー!」


私は手に持っていた赤ペンをテーブルの上にぽんと放り、腕を天に向けてオフィスチェアに座ったまま背伸びをし、誰も居ないオフィスで一人叫ぶ。

パキパキと首や肩の骨が音をたてるのを感じながら、はぁ~と大きく息をつきながら体の力を抜いた。


「……文句言っても仕方ない。やるしかない。がんばろ」


凝り固まっている肩をぐるぐると回して「よしっ」と気合いを入れた時、オフィスの扉ががちゃっと開いた。

 
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