モノクロ
 

「あ、マジでいた」

「っ!?」

「よ、さきこ。お疲れ」


突然開いた扉と聞きなれた声に驚いて振り向いた先にいたのは先輩。

思わぬ来客に挨拶もできずに固まってしまっていると、テーブルに散らばった原稿に目線を落とした先輩が予想もしない言葉を私に向けてきた。


「それ、カタログの原稿チェック?」

「あ、はい……」

「その仕事、しなくていいよ」

「……はい?」

「っていう、佐山からの伝言な」


仕事しなくていいって、何? しかも、佐山さんからの伝言?

先輩の言っている言葉の意味がわからず、聞き返す。


「あの、どういう……」

「カタログ原稿チェックの締め切りは再来週いっぱいまでだから、残業なんかしなくても余裕なんだと」

「はいっ!? でも、月曜中に終わらせないといけないから、残業時間で適当なところまで終わらせといてって、佐山さんが言ってて」

「嘘だと思うんなら、佐山のデスク上にあるTODOリストを見てみろよ。書いてあるらしいから」

「!」


私はがたっと立ち上がって佐山さんのデスクに向かう。

そして卓上カレンダーの横に置いてあるTODOリストを覗き込んだ。

確かにそこにはカタログ原稿のチェックの締め切りは再来週末で、作業の担当は私の後輩だということが書いてある。


「……どうして嘘なんか」

「佐山なりのおせっかいだろうな。俺とさきこを会わせるための」

「……先輩と私を会わせるため……?」

「そう」


佐山さんが私と先輩を会わせるために、私をわざと残業をさせた?

私が先輩を避けていることを知っている佐山さんなら、確かにやりかねないけど……。

 
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