モノクロ
「……せ、先輩……、離して、ください」
「嫌。離さない」
「……お願い、離して、」
「好きになったんだ。さきこのこと」
「…………へ?」
今、何て……?
私の体を捕らえていた先輩の腕が緩み、私と先輩の間に小さな隙間が生まれる。
先輩は私のことを緊張した面持ちで見下ろしてきていて、その表情を私はぼんやりと見つめる。
「俺、さきこが好きだ」
「……」
……今……、好き、って言った……?
「っ!?」
あまりにも驚きすぎて後ずさろうとしたけど、先輩に捕まえられていて、そうできない。
『またまたー! 先輩ってば冗談言って、私を慌てさせようとしてるんでしょっ!? そんな手には乗りませんからね!』……って言いたいのに、言葉が出ない。
いや、だって、そうでしょ? こんなの、冗談に決まってる……!
早く先輩に冗談だと認めてもらわないと、私はまたバカみたいな期待をしてしまう。
もうすでに期待は膨らみ始めていて、このままだとあっという間に取り返しがつかなくなってしまう。
早く、早く笑い飛ばさなきゃ……。
そう思うのに、声も言葉も出てくれない。
どうしようもなくて、私は先輩を見つめながら首を小さく左右に振る。
「ふ、俺のこと、そんなに嫌い?」
「っち、違……っ」
「俺が聞いたと思ったさきこの言葉、やっぱり勘違いだった? 出逢ってすぐのさきこからの告白の後もずっと、さきこは俺のことを好きでいてくれたのかもしれないって思ったの、やっぱり俺の自惚れ? ……今はもう、ショウってやつのことが好き?」
「違……っ。で、でもっ、先輩の好きな人は、友美さんじゃ……っ」
ぽろっと友美さんの名前を出してしまって、慌てて声をのみ込む。
でも時すでに遅し。先輩は目を見張っていて、一瞬の後、ふと諦めたように息をついた。
「……あー、そっか、気付かれてたのか……。じゃあ、俺のこと、気持ち悪いって思ったから離れようって思ったんだ?」
「……?」
気持ち悪い、って何?と、きょとんと先輩を見ていると、先輩はふっと嘲笑した。