モノクロ
 

「……あー、やべ。さきこの妄想がすごすぎて、時間が止まったかと思った。くくっ」

「わ、笑い事じゃ……っ」

「うん。ごめん。でも、それ、ほんとに全部違うから。絢が結婚するのは違う男だし、今度会った時にでも直接聞いてみたら? たぶんクールな顔してのろけてくるから、おもしれぇと思うよ」

「違う、人……?」

「うん。幼馴染みなんだってさ。“運命の人が近くにいた”んだと。
あと、友美の言葉に頷いたってやつだけど、冗談で濁したとは言っても、さきこのことを彼女って紹介した流れもあったし、普通、“彼女イコールさきこ”って考えねぇ? さきこに意識させるつもりで彼女だって紹介したのに、まさかそんな変な誤解されてたなんて、ちょっと笑うしかない」


なに、それ……。そんな先輩の思惑が隠れてたなんて、わかるわけがないじゃない……。

だって、先輩は私の告白を断ってるんだよ? 期待をしてしまったとしても、どうせ冗談なんだと思うに決まってる。

「でも」と先輩は言う。


「さきこ、俺の気持ち、考えてくれてたんだな」


するりと先輩の手が私の頭を撫でる。


「……想いが伝わらない辛さ、知ってるから。これ以上、先輩に切なくて苦しい想いなんてしてほしくなかった。そんな切ない話、作り物の世界だけで十分です」


兄妹同士の恋愛マンガに憧れを抱いていた昔の私を叱ってやりたいくらいだ。

そんな切なすぎる恋愛は苦しいだけなんだから、現実には、いらないんだって。


「それに、自分の想いが叶わないなら、先輩には幸せになってもらわないと報われないじゃないですか……」

「それ、もしかして、俺への文句? ん? 嫌み?」

「……バッサリとフラれたことに対する嫌み、ってことにしておきます」

「ぶはっ! でも、そうだよな。俺、前にさきこに告白された時、頭っからさきこの気持ちを否定して……辛い想いさせたよな。ごめん。あの時はまだ友美に対しての気持ちの整理が全くついてなかったからさ。人の気持ちなんて簡単に信じられなかったし、簡単に“好き”なんて言うなよって思ってた。さきこが俺の言葉にどう感じてるかなんて考えようともしなかった。……でもそれを変えたのはさきこなんだ」


私が、変えた……?

 
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