モノクロ
 

「さきこと居ると、いろんなことが覆っていくんだよな。心から笑える日なんて来ないって思ってたのに、さきこといるとすっげぇ楽しくて心から笑えてる俺がいるんだ。さきこの一生懸命な姿を見るたびに頑張れって応援したくなって、俺も単に仕事をこなすだけじゃなくて自分にできることをもっとしっかり頑張ろうって思うようにもなってた。
前にさきこの部屋に無理矢理泊まらせてもらったこと、覚えてる? さきこがブックカバーの試作に無事に回せたって伝えるために営業のフロアに来てくれた日」

「あ、はい……。もちろんです」

「さきこは覚えてるかわかんないけどさ、あの日、俺に電話掛かってきたんだけど、あれ、友美が流産しそうになったっていう圭斗からの電話だったんだ」

「……え?」


流産……?


「友美も子供も無事だったから安心して。無事に生まれたのが幸太だよ」

「あ、そうなんですね……。良かった……」


ほっと胸を撫で下ろす。


「その話を聞いた瞬間は取り乱したけど、さきこの顔を見たらほっとして不思議と落ち着けた。もちろん友美のことは心配だったけど、友美のそばにいてやれるのは圭斗なんだよなって思って。
友美を忘れられない気持ちはまだ残ってたけど、あの頃からかな。さきこにずっと俺のそばにいてほしい、って素直に思い始めたのは。あの日無理矢理さきこの部屋に泊まったのも、さきこのそばから離れたくなかったから」

「……」

「情けないんだけど、あいつが結婚してからもずっと気持ちは俺の中に残ってて忘れられなくて、一生、人を好きになることはないと思ってた。さきこに出逢ってからも、しばらくはずっと。なのに、気付いたらさきこがそばにいることが当たり前になってて、さきこのことばっかり考えてる俺がいた。あいつに対する苦しいくらいの気持ちも、いつの間にかびっくりするほど綺麗さっぱり消えてた。
さきこが後輩の男になつかれてるって聞いた時も、ショウってやつが現れた時も、本当はすっげぇ嫉妬してたんだ」

「……嫉妬……?」

「うん」


うそ……っ、嫉妬なんてしてくれてたの……!?

まさかの告白に驚いてしまう。


「何をするにもすべてがモノクロの世界で、俺はずっとそんな世界に満足してたはずなのに……こんなにいろんな色がついた気持ちを感じる日がくるなんて、さきこと出逢うまでは想像すらできなかった」

「……」

「さきこのおかげだよ。さきこがいたから、本当の意味で俺は前を向けた。……ほんとに俺、さきこのことがすっげぇ大切なんだ」

「先輩……っ」


私のこと、そんな風に思ってくれてたの……?

夢みたい……。信じられない……。

 
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