モノクロ
一通り涙を拭ってくれた先輩の笑顔が見えた瞬間、目の前が真っ暗になった。
「んむっ?」
突然の暗転に私は目をぱちくりとしてしまう。
近すぎてぼんやりとしてるけど……こ、これは先輩の黒縁メガネ、だよね……?
唇に何か押し当てられてる気がするんだけど……唇……?
……って、えぇっ!? き、き、キス……っ!?
先輩の行動に驚きすぎた私が体を強張らせたまま後ろに引こうとすると、唇に押し当てられていたものがふっと離れた。
目を閉じていた先輩が私を見つめながらゆっくりと目を開く光景が見えて、その表情がすごくセクシーで私の心臓を高鳴らせる。
先輩って、まつげ長いんだ……。っていうか、近くで見ると、顔のパーツがすごく整ってる……。
「くっ。ガン見かよ。やっぱり色気ねぇな」
明るい場所でこんなに近くで先輩の顔をじっくり見たのは初めてでつい見入ってしまっていたけど、先輩の笑い声にはっと我に返った。
「……せっ、先輩、い、今の」
「は? キスだろ? いや、触っただけだしキスじゃねぇな。キス手前の触れ合い?」
「っ!?」
さらりと言いのけた先輩にまた私は驚いて、息をのんでしまう。
先輩のキスの定義って何!? っていうか、先輩、ドキドキの欠片すらしてくれてない!?
妙な悔しさとパニックを起こしそうになりながら、未だに信じられていないことを先輩に問い掛ける。
「あ、あの、先輩」
「ん?」
「えっと……。せ、先輩って……本当に私のこと、好きなんですか? そ、それとも、誰にでもこういうチューできる、とか」
「……お前な、ふりだしに戻すなよ」
「だって……っ」
「まぁいいけどさー。これから先何度と言わず、何百回も何千回もするんだから、そのうち慣れるだろ。つーか、さきこ、わかってんの?」
「ひっ!?」
先輩の手が私の頭の両側からふわりと包み込む。
耳に当たっている先輩の指が小さく動くたびに、そして、あと5センチで触れてしまう顔の距離に、私はびくりと反応してしまって、体が熱くなっていくのを感じる。
「俺の本当の初恋は、さきこだからな? 俺が初めて自分から好きになった女は、お前だ」
「……えぇっ!?」
「ってことだし、手加減できない……っていうか手加減とかわかんねぇから、俺に愛される覚悟はしといてな」
「!! えっ、あの、待っ……」
先輩のにっこりとした笑顔が見えて、その圧力に後ずさりしようとするけどできなくて、あっという間に先輩の唇が私のそれに触れていた。
……先輩からされるキスは言葉とは違って、すごくすごく優しくてやわらかかった。