モノクロ
「昼1時には会社に戻れると思うから、それから会社出て、役所に届け出しに行こ」
「い、いよいよなんですね……っ。ドキドキする!」
「今日の夜からはさきこって呼べなくなるな。きむこ?」
「何かそれ、嫌です。“さきこ”方式なら、“きらこ”じゃないんですか?」
「それはかわいくないから却下。さきこもいい加減、“先輩”はやめろよ? 結婚するんだし」
「んー、一応考えてみたんですけど、いいの思い浮かばなくて。若菜さんたちにも電話で相談したけど、なかなか」
「は? 何で俺じゃなくて、あいつらに相談すんだよ」
意外とヤキモチ焼きな先輩の眉間にシワが寄る。
「一番私たちのことを考えて心配して喜んでくれたからですっ。二人からは梢ちゃん方式で“はーくん”はどうかって勧められたけど……やっぱり私イチオシの“はとさん”がいいかなって」
「鳥かよ。却下。梢の方がセンスが数倍上だな」
「えぇー! 何で!? かわいいのに!」
「普通に名前でいいじゃんか」
「普段呼ぶの、何か照れ臭いんですもん。あっ、じゃあ第2候補の“とーさん”はどうです?」
「ほんとさきこって、ろくなもん考えてねぇよなー。俺は明希の旦那にはなっても、父親になる気はねぇからな」
「別にそんな意味で言ってるんじゃ……って、今」
あああ「明希」って聞こえた……!
普段は滅多に呼んでもらえない自分の名前に感動していると、先輩が腕時計を見て慌てたように声を出す。
「あ、やべ。とろとろしてたら、マジで遅刻する」
「待って、先輩っ、もう1回名前呼んでください!」
「ダメ。今日の分は終わり」
「うそっ! 1日1回なんですか!? そんなレア感、いりません!」
「はいはい。ほら、明希。行くよ」
「……はいっ!」
先輩が私の手を取り、私たちは二人並んで歩き出す。
……あなたと過ごす日々は色とりどりで。
どんなに辛いことがあったって、悲しいことがあったって、たとえ色が見えなくなってしまうような時だって、あなたが一緒ならきっとどんな色でも乗り越えられる。
モノクロの世界に生きていた私にキラキラした世界を教えてくれたあなたと一緒に、笑って泣いて、楽しく過ごしていきたい。
これからも、あなたと二人で彩り溢れる日々を。
fin.