モノクロ
番外編1*スノーホワイト
(付き合い始めて数ヶ月後のお話)
***
……数分の沈黙の後、口を開いたのは私だった。
「……嫌です」
「……」
私の言葉に、隣に座っている紀村先輩は何も言わない。
「……ワガママって言われても……嫌……っ!」
「……さきこ」
ふるふると頭を横に振りながら溢した私の言葉に、先輩がようやく口を開いた。
……その私の名前を呼ぶ先輩の優しい声に泣きそうになってしまう。
……いつものように私の部屋に来てくれていた先輩の口から出てきた言葉に、私は数分間言葉を失っていた。
その理由は、たった今聞かされたこと……先輩が転勤の辞令が下りる予定だという事実を、私は受け入れることができなかったからだ。
転勤の場所は、新幹線を使って2時間半もかかる土地らしい。
まだ先のことだとは言え、そんなに離れてしまったらこうやって簡単に会うこともできなくなる。
そんなの簡単に受け入れられるわけ、ない。
「何で……先輩なんですか?」
「……」
ぽつりと言ってしまったその言葉が本音だった。
だって、営業部の人間はもっとたくさんいるのに。先輩じゃなくたっていいじゃない……そう思ってしまったんだ。
先輩はここが地元なんだから、地元じゃない人が転勤してしまえばいいのに。
……でも、まだ転勤の辞令が正式に下りたわけじゃない。
あくまでも“予定”だ。
それに時間はあるし、今から直談判すれば何とかなるかもしれない。
ショックで突飛な考えを頭に浮かべてしまった私は、座っていたソファからガバッと立ち上がり、ぐっと拳を握り締めた。
「っ、私、行ってきます!」
「は!? ちょ、さきこ待てって! どこに行くんだよ!?」
先輩が私の行動と言葉に驚いたようで、私の腕を慌てて掴んできた。
でも、私はその手を振り払おうと腕を上下にぶんぶんと振る。
先輩に引き止められても、私は行くんだから……!
私はキッと先輩を見て、口を開いた。
「止めないでください! 他の人に変更してもらえないか、直談判してきます!」
「いや、さきこ、落ち着けよ」
「~~っ、だって……! 先輩はいいんですか!?」
先輩のことをぐっと見つめると、先輩も私のことをじっと見てきた。
そして、はぁと息をついて、ゆっくりと口を開いた。
「……変更してもらうのは無理だって。仕方ないよ。仕事で決まったことなんだし」
「でもっ、……遠すぎます……っ」
「……さきこ」
私を落ち着かせるように柔らかく笑った先輩の笑顔は、寂しげで、いつもの明るさはない。
その表情に私は力を入れていた身体から力を抜いた。
……でも、身体の力を抜いてしまったら涙腺までもが緩んでしまって……すごく泣きそうになってしまう。
目に溜まってしまった涙が零れないように必死に私は堪えるけど……。
「……やだ……っ」
「……さきこ」
「先輩と離れたくないです……っ」
それが一番嫌なの。先輩が近くに居てくれない生活なんて、今の私には耐えられない。
ぽろりと言ってしまった本音と一緒に、涙が一粒、私の頬を伝った。
……本当はわかってる。仕事で決まったことなんだから、受け入れるしかないんだって。
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……数分の沈黙の後、口を開いたのは私だった。
「……嫌です」
「……」
私の言葉に、隣に座っている紀村先輩は何も言わない。
「……ワガママって言われても……嫌……っ!」
「……さきこ」
ふるふると頭を横に振りながら溢した私の言葉に、先輩がようやく口を開いた。
……その私の名前を呼ぶ先輩の優しい声に泣きそうになってしまう。
……いつものように私の部屋に来てくれていた先輩の口から出てきた言葉に、私は数分間言葉を失っていた。
その理由は、たった今聞かされたこと……先輩が転勤の辞令が下りる予定だという事実を、私は受け入れることができなかったからだ。
転勤の場所は、新幹線を使って2時間半もかかる土地らしい。
まだ先のことだとは言え、そんなに離れてしまったらこうやって簡単に会うこともできなくなる。
そんなの簡単に受け入れられるわけ、ない。
「何で……先輩なんですか?」
「……」
ぽつりと言ってしまったその言葉が本音だった。
だって、営業部の人間はもっとたくさんいるのに。先輩じゃなくたっていいじゃない……そう思ってしまったんだ。
先輩はここが地元なんだから、地元じゃない人が転勤してしまえばいいのに。
……でも、まだ転勤の辞令が正式に下りたわけじゃない。
あくまでも“予定”だ。
それに時間はあるし、今から直談判すれば何とかなるかもしれない。
ショックで突飛な考えを頭に浮かべてしまった私は、座っていたソファからガバッと立ち上がり、ぐっと拳を握り締めた。
「っ、私、行ってきます!」
「は!? ちょ、さきこ待てって! どこに行くんだよ!?」
先輩が私の行動と言葉に驚いたようで、私の腕を慌てて掴んできた。
でも、私はその手を振り払おうと腕を上下にぶんぶんと振る。
先輩に引き止められても、私は行くんだから……!
私はキッと先輩を見て、口を開いた。
「止めないでください! 他の人に変更してもらえないか、直談判してきます!」
「いや、さきこ、落ち着けよ」
「~~っ、だって……! 先輩はいいんですか!?」
先輩のことをぐっと見つめると、先輩も私のことをじっと見てきた。
そして、はぁと息をついて、ゆっくりと口を開いた。
「……変更してもらうのは無理だって。仕方ないよ。仕事で決まったことなんだし」
「でもっ、……遠すぎます……っ」
「……さきこ」
私を落ち着かせるように柔らかく笑った先輩の笑顔は、寂しげで、いつもの明るさはない。
その表情に私は力を入れていた身体から力を抜いた。
……でも、身体の力を抜いてしまったら涙腺までもが緩んでしまって……すごく泣きそうになってしまう。
目に溜まってしまった涙が零れないように必死に私は堪えるけど……。
「……やだ……っ」
「……さきこ」
「先輩と離れたくないです……っ」
それが一番嫌なの。先輩が近くに居てくれない生活なんて、今の私には耐えられない。
ぽろりと言ってしまった本音と一緒に、涙が一粒、私の頬を伝った。
……本当はわかってる。仕事で決まったことなんだから、受け入れるしかないんだって。