モノクロ
「……はぁ。ばーか。……ほんと、仕方ないやつ」
「ひゃ……っ!?」
先輩が私の身体を引き寄せ、次の瞬間には私は先輩に抱えられるようにして抱きしめられていた。
私を落ち着かせるように、先輩の手がぽんぽんと私の頭と背中を撫でてくれる。
「せ、先輩ぃ……」
「……ほら、泣くなって。な?」
先輩はくすくすと笑いながら、私をなだめるようにぎゅうっと抱きしめてくれる。
その力強さに私の目からは次から次へと涙が溢れてきてしまった。
……だって会えないってことは、こんな風に抱きしめてもらえなくなるんだよ?
そんなの寂しすぎるよ……。
先輩はそう思ってくれないの……?
もうすぐ簡単に触れられなくなるかもしれない先輩のことを想うと寂しさが溢れてきて、私は普段は恥ずかしくてあまりしない行動に出た。
先輩の背中に腕を回して、ぎゅうっと抱きついたのだ。
……離れたくない、と伝えるように、強く。
「……あー、もう」
「っ」
先輩の呆れたような声が落ちてきて、私はびくりと身体を強張らせる。
それと同時に、先輩の背中に腕を回したことを後悔した。
私にそうされるのが迷惑だったのかもしれない、公私混同するなと思われてるかもしれない、と思ったから。
でも、私の心配に反して、先輩は避けるような素振りは全く見せなかった。
むしろ、先輩の腕にもっと力がこもった気がした。
「まだ転勤までは時間あるし、少し落ち着いてからって思ってたんだけど……2択な?」
「……へ?」
……急にクイズですか?
「いち。遠距離。負担になるのもあれだし、まぁ会っても月一ってところか」
「……?」
「に。」
「……!」
この時、気付いてしまった。
選択肢の一つ目が「遠距離」。
ってことは、今先輩が言ってるのは今後の選択肢ってことだ。
じゃあ……二つ目は……?
嫌な予感しか生まれなかった。
「遠距離」を選ぶことは、このままの関係を続けるということ。
そして、二つ目の選択肢は……きっと「別れ」だ。
距離が遠くなるのが嫌なら別れるしかない、って。
……嫌。そんなの、絶対に嫌!
そうは思っても、私は何も口に出せなかった。ただ、涙が溢れてくるばかりだ。
先輩はどんな表情をして話しているんだろう……?
どうやって「別れ」を切り出すか、考えてるの……?
すごくすごく怖くて、私は先輩の顔を見ることはできなかった。
「……」
「……」
沈黙が続く。……心臓がどくんどくんと重く打つ。
「……」
「……」
まだ、沈黙は続く。
……重苦しい心臓の鼓動に耐えるのが辛くなってきた。
「……」
「……先輩……?」
あまりにも長すぎる沈黙と苦しさに耐えられなくなった私は先輩から少し離れ、何も言わない先輩の顔を見上げる。
ばちっと目が合った。
ほとんど見せないような真剣な表情の先輩がそこにはいた。
……先輩の口からどんな言葉が出てくるのか、怖くてたまらない。
先輩は私の頬に伝っていた涙を親指で拭った後、何かを決意したようにすぅっと息を吸い口を開いた。