モノクロ
番外編2*ローズピンク
(番外編1の後の話)
***
企画部の会議で使用するオフィスの真ん中にあるテーブルから、企画部の同僚がバラバラと自分のデスクに戻っていく。
手帳を自分のデスクに置きふぅと息をついた時、同じように隣のデスクに手帳を落ちた佐山さんから声が飛んできた。
「佐々木さん、悪いけど、日程の再調整しておいてもらえる?」
「はい。試作品を作る段階まできてから企画に戻ることってあるんですね……」
「佐々木さんが関わった企画では初めてか。たまにあるんだ。他が同じような商品を出してきたら、こっちは引くしかないからな。まぁでも、試作に回す前でまだ良かったよ。また最初からやるしかない」
「すっごく残念だし悔しいですけど、逆にヤル気出ました。他にない、もっといいものを作ればいいんですよね! 頑張りましょう!」
「あぁ」
現在私がメンバーに入って進めていた企画は“アニマルペンケース”。
その名の通り、動物をモチーフとしたペンケースなんだけど、他の文具メーカーが似たような商品を発売することを知り、会議の結果、企画を断念することになったのだ。
頑張っていただけに断念することは残念だけど、落ち込んでいたって仕方ない。
誰にも出せない魅力的な商品を考えていくしかない。
ちょうどお昼になる時間。
私は佐山さんに最近毎日のように掛けている言葉を掛ける。
「あの佐山さん、今日のお昼、一緒しません?」
「あぁ。いいよ」
「ありがとうございます!」
佐山さんが快くOKしてくれて、私はほっと胸を撫で下ろした。
今日訪れたのは家庭の味がたまらなく美味しいことでひそかな人気を保つ隠れ家的な定食屋さん。
今日は大好きな豚のしょうが焼き定食を頼み、美味しくいただいた。
「なるほどな。最近昼飯に誘ってくる理由はそれだったんだな」
「すみません……」
「いや。相談してもらうのは構わないが、あいつにも相談した方がいいんじゃないか?」
「それはそうなんですけど……」
「けど?」
最近ずっと佐山さんに相談したいことがあり、ランチに誘うようになっていた。
でも言い出し辛くて、今日やっと相談ごとを伝えることができたのだ。
相談というのは、仕事をどうするかということ。
先輩にプロポーズしてもらえたのは泣くほど嬉しかったけど、先輩について行くとなったら私は仕事を辞めないといけない。
私が所属する企画部はこの本社にしかないから。
あの時は嬉しさばかりで、仕事のことは何も考えていなかったんだ。
「まだ覚悟できてないんですよね……。仕事の話をしちゃうと、仕事を辞めたくないならついて来なくていいって言われそうで」
「実際はどうなんだ? 仕事、続けたいのか?」
「……仕事が楽しいんです。それはもう、ものすごく。やっと企画の仕事に入れてもらえるようになって、企画の仕事でやったことがないこともまだまだたくさんあるし、もっとやりたいって気持ちはやっぱりあります。でも、先輩から離れたくないって気持ちも大きくて。そんなの私のわがままだし、どっちかひとつを選ばないといけないこともわかってるんです」
「佐々木さんが紀村について行くって決めてて企画の仕事をしたいと言うのなら、他の会社を見つけるのもありだろうけど。あっちはこっちよりも都会だし、探せば中途採用もあるんじゃないか? まぁこっちとしては佐々木さんがいなくなるのは惜しいけどな。戦力になってきてるし、正直、辞めて欲しくないな」
「佐山さん、何ですかそれ……。そんな嬉しいこと言われたら辞められないじゃないですか~」
「何度もあることじゃないし、悩むことも悪くないだろ。最終的に決めるのは佐々木さんだけど、話くらいは聞くから」
「ありがとうございます……。もうちょっと考えてみます」
そうは言っても、本当は心の中では結論はほぼ出ていて。
仕事は辞めたくない。
でもそれ以上に、先輩について行きたいという気持ちが大きい。
となれば、佐山さんの言う通り、転勤先にある会社で企画の採用がないかを調べるのがいいのかもしれない……。
結局、相談している時点でもう結論は出てしまっていて、ただ背中を押してもらいたいだけなんだ。
***
企画部の会議で使用するオフィスの真ん中にあるテーブルから、企画部の同僚がバラバラと自分のデスクに戻っていく。
手帳を自分のデスクに置きふぅと息をついた時、同じように隣のデスクに手帳を落ちた佐山さんから声が飛んできた。
「佐々木さん、悪いけど、日程の再調整しておいてもらえる?」
「はい。試作品を作る段階まできてから企画に戻ることってあるんですね……」
「佐々木さんが関わった企画では初めてか。たまにあるんだ。他が同じような商品を出してきたら、こっちは引くしかないからな。まぁでも、試作に回す前でまだ良かったよ。また最初からやるしかない」
「すっごく残念だし悔しいですけど、逆にヤル気出ました。他にない、もっといいものを作ればいいんですよね! 頑張りましょう!」
「あぁ」
現在私がメンバーに入って進めていた企画は“アニマルペンケース”。
その名の通り、動物をモチーフとしたペンケースなんだけど、他の文具メーカーが似たような商品を発売することを知り、会議の結果、企画を断念することになったのだ。
頑張っていただけに断念することは残念だけど、落ち込んでいたって仕方ない。
誰にも出せない魅力的な商品を考えていくしかない。
ちょうどお昼になる時間。
私は佐山さんに最近毎日のように掛けている言葉を掛ける。
「あの佐山さん、今日のお昼、一緒しません?」
「あぁ。いいよ」
「ありがとうございます!」
佐山さんが快くOKしてくれて、私はほっと胸を撫で下ろした。
今日訪れたのは家庭の味がたまらなく美味しいことでひそかな人気を保つ隠れ家的な定食屋さん。
今日は大好きな豚のしょうが焼き定食を頼み、美味しくいただいた。
「なるほどな。最近昼飯に誘ってくる理由はそれだったんだな」
「すみません……」
「いや。相談してもらうのは構わないが、あいつにも相談した方がいいんじゃないか?」
「それはそうなんですけど……」
「けど?」
最近ずっと佐山さんに相談したいことがあり、ランチに誘うようになっていた。
でも言い出し辛くて、今日やっと相談ごとを伝えることができたのだ。
相談というのは、仕事をどうするかということ。
先輩にプロポーズしてもらえたのは泣くほど嬉しかったけど、先輩について行くとなったら私は仕事を辞めないといけない。
私が所属する企画部はこの本社にしかないから。
あの時は嬉しさばかりで、仕事のことは何も考えていなかったんだ。
「まだ覚悟できてないんですよね……。仕事の話をしちゃうと、仕事を辞めたくないならついて来なくていいって言われそうで」
「実際はどうなんだ? 仕事、続けたいのか?」
「……仕事が楽しいんです。それはもう、ものすごく。やっと企画の仕事に入れてもらえるようになって、企画の仕事でやったことがないこともまだまだたくさんあるし、もっとやりたいって気持ちはやっぱりあります。でも、先輩から離れたくないって気持ちも大きくて。そんなの私のわがままだし、どっちかひとつを選ばないといけないこともわかってるんです」
「佐々木さんが紀村について行くって決めてて企画の仕事をしたいと言うのなら、他の会社を見つけるのもありだろうけど。あっちはこっちよりも都会だし、探せば中途採用もあるんじゃないか? まぁこっちとしては佐々木さんがいなくなるのは惜しいけどな。戦力になってきてるし、正直、辞めて欲しくないな」
「佐山さん、何ですかそれ……。そんな嬉しいこと言われたら辞められないじゃないですか~」
「何度もあることじゃないし、悩むことも悪くないだろ。最終的に決めるのは佐々木さんだけど、話くらいは聞くから」
「ありがとうございます……。もうちょっと考えてみます」
そうは言っても、本当は心の中では結論はほぼ出ていて。
仕事は辞めたくない。
でもそれ以上に、先輩について行きたいという気持ちが大きい。
となれば、佐山さんの言う通り、転勤先にある会社で企画の採用がないかを調べるのがいいのかもしれない……。
結局、相談している時点でもう結論は出てしまっていて、ただ背中を押してもらいたいだけなんだ。