モノクロ
「先輩」
「あ?」
「それって、もしかして佐山さんに……嫉妬してるんですか?」
「! 別に、そんなんじゃねぇし」
ふいっと目線をそらす行動は、肯定だ。
普段はすごく頼りになるのに、不意打ちで先輩はかわいい表情を見せる。
それがどれだけ嬉しいか。
「先輩、ありがとう」
「……何で“ありがとう”になるんだよ。嫉妬なんて嬉しいもんじゃなくね?」
そんなわけない。そういう気持ちを持っててくれたなんて、すごく嬉しい。
だって、私のことを想ってくれてるってことが伝わってくるものだから。
「嬉しいよっ!」
「わっ!」
私のことをちゃんと考えてくれていたことも、佐山さんに嫉妬してくれていたことも、どれも嬉しくて、私は先輩の胸に飛びつくようにして抱きついた。
不意打ちだったようで先輩の体は私を抱えるようにしてそのままベッドの上に転がり、先輩を押し倒してしまったような格好になってしまったけれど。
先輩のあたたかさにほっと落ち着く。
「私、幸せすぎますね。先輩にこんな風に思ってもらえて、上司にも恵まれて。大好きな人も仕事も両方失わずにいられるなんて、ほんと幸せ……って、あれっ?」
先輩の胸の上に乗っていたはずなのに、くるりと視界が反転し、あっという間に私の体はやわらかいベッドの上へ。
そして、私の上には先輩がいて、私の心臓が音をたてた。
「先輩?」
「さきこにとって大切なものは俺にとっても大切なものだってこと、ちゃんと覚えといて。いい?」
先輩の手が私の手に絡み、ベッドの上に張り付けられる。
先輩の言葉に答えるように、上に乗った先輩の手をきゅっと握った。
「……うん。先輩も、その逆も同じだってこと、ちゃーんと覚えておいてくださいね」
「もちろん」
「ん……っ」
先輩の唇が私の唇に触れる。
先輩の熱が心地よくて体の力が抜けていく。
唇も、体も、何度重ねても慣れることはなくて、私の心臓はいつもトクトクと速くなり体を熱くしていく。
「は……っ」
「……さきこ。眼鏡、外して?」
「あ、出た。先輩の甘えんぼ」
「ダメ?」
「ううん。ダメじゃないです。こんな風に甘える技を持ってる先輩はズルイと思いますけどね~」
くすくすと笑いながら先輩の眼鏡に手を伸ばし、そっと外す。
素顔になった先輩を見つめると、その表情はいつもと違うものに変わっていて。
……先輩の彼女になってから知った、先輩の顔。
“これからの時間”を考えると照れくさくてドキドキして。
私は先輩の目線から逃げるように体をくねらせて腕を伸ばし、眼鏡をベッドの横に置いてある棚の上に置きながら口を開く。
「あ、そうだ。佐山さんにお礼言っとかなきゃ。あとやっぱり迷惑は掛けちゃうし部長とも話してー」
「この状況で仕事の話をして俺を放置するさきこの方が、よっぽどズルイよな」
「……察してくださーい」
「くっ。はいはい」
「照れくさいってことな」と私の心を察してくれた先輩の手が棚の方に伸びていた私の手を捕まえ、指を絡ませながら先輩は再び私にキスを落とし始めた。
おわり。