モノクロ

番外編3*チェリーピンク

(番外編1よりも前の、はじめての。……なお話)


***

「……不細工な顔してる」

「!」


私から離れた唇から出てきたのはそんな言葉。

こんな時に言われるなんて想像すらしていなかった言葉に、私はショックを受けた。

……もしかして、呆れられたのかな。もう、私のこと、嫌になっちゃった……?

普段であれば「不細工」なんて言われたら「酷い!」と言い返していたはずだけど、今は不安ばかりが押し寄せてきて何も言えない。

言葉が出ないまま先輩のことを見上げていると、先輩がふっとやわらかく笑った。


「っていうのは冗談。……ごめん、いつもみたいに言い返せないくらい緊張してるんだよな?」

「あ、あの……」

「もしかしてさ、怖い?」

「っ!」

「ずっと不安そうな顔してるし、体だって緊張しっぱなしだから。……嫌なら、今日はやめよっか?」


先輩のやさしい声に私はふるふると小さく首を振る。


「先輩、ごめんなさい……、私……っ」

「何で謝るんだよ。さきこは別に悪くないだろ? むしろ、怖がらせてる俺が悪いっつーか」

「ち、違います! 先輩のことが嫌とか怖いとかそういうんじゃないんです……っ。私だって先輩に触れたい……っ。でも……っ、ごめ……っ」

「さきこ、落ち着いて」

「先輩、お願い、嫌わないで……っ」


先輩に離れられるのが怖くて訴えるように手を伸ばして先輩の服をきゅっと掴む。

すると先輩の手がなだめるように、私の頭を撫でてくれた。


「落ち着けって、さきこ。大丈夫だから」

「……っ」


こうなったのはすごく自然な流れだったし、先輩になら身を委ねられると思った。

はじめての時間を先輩と過ごせるなんてすごく幸せだって。

でも私がこんなだから、先輩を嫌な気持ちにさせてしまったかもしれない。

ごめんね、先輩。
 
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