モノクロ
「さきこ、おいで」と先輩の腕が私の二の腕と腰に添えられ、ぐいっと上半身を起こされた。
先輩の足の間にちょこんと座らされた私の体を先輩の腕がふわりと包み込むようにして、抱き締めてくれる。
「どうして俺がさきこを嫌うと思うんだよ。嫌うわけねぇだろ」
「先輩……っ」
「聞いたことなかったけどさ。もしかして、こういうの、はじめて?」
「っ! ……えっと、あの……」
「うん」
「…………れ、0.5……?」
「……くくっ。どうカウントしたら、そうなるんだよ」
私が出してきた数字に先輩はくすくすと笑いながら、体を少し離し私の顔を覗き込んでくる。
そして私の体が冷えないようにと気遣ってくれているのか、先輩は私の乱れた服を少し整え、再び腕を腰に回してふわりと包み込んでくれる。
先輩の髪の毛がおでこにふわふわと触れて、くすぐったい。
「言いたくないなら無理に聞かないけど」
「……言ったら、先輩、私のことが嫌になるかも。めんどくさいって投げ出しちゃうかも」
「は? 何で。ならねぇって。俺がさきこを離すわけねぇだろ?」
口調はいつもと同じなのに、先輩はいつもよりもずっとやさしく笑いかけてくれる。
それは私を落ち着かせるようなもので、愛情が伝わってくるものだった。
「……先輩、その言葉、信じてもいいんですか?」
「当たり前だろ? 嘘なんかつかない」
「……」
先輩の瞳はただまっすぐ私を見つめる。
そこには嘘は見えない。
小さな沈黙の中、先輩なら受け入れてくれるかもしれない、と私は口をゆっくりと開いた。
「……あの……一度だけ、彼氏が居たことがあって、そういうことになったことがあったんです」
「……うん」
「でも、あの……いざその時になると、すごく、痛くて……。結局、最後までできなくて、そのまま気まずくなって別れちゃった……っていう、0.5、なんです、けど……」
「……そっか」
「……こんなの、めんどくさい、ですよね。あはは、……っ」
笑い飛ばそうとしたのに、私から出てきたのは涙で。
こんなことで泣いたりしたら、もっとめんどくさいって思われちゃうのに……。