モノクロ
私の目に映るのは、モノクロの本の中の主人公、紗菜の頬に一筋の涙が流れている場面。
誰かを好きになって泣くキャラクターを本の中ではたくさん見てきたけど、私はまだ経験したことのない感情。
恋はしたこともあるけど、そこまでの感情を感じることはなく終わってしまったから。
だから、本の世界での疑似体験だけでしか味わったことはない。
いつか私も、こんな風に泣いてしまうほど人を好きになることはあるんだろうか?
……全く想像できないな……。一生なさそう。
“続”という文字を見て、私はぱたりと本を閉じた。
「はぁ~……。早く続き読みたいな~。でも、来月までの我慢我慢! よしっ、次はBL本読んじゃおう!」
用意されていたかのように、すぐ横に置かれていたマンガ本に手を伸ばし、表紙をぺらりと捲る。
そこに描かれたイケメンの男ふたりがぴったりと寄り添うイラストを見て、私のテンションが上がる。
むふふ、と笑いが出た。
そしてまた、私はモノクロの世界に入り込んでいく。
これが中学生の頃から続く、私の日常。
きっとこれからも、続くんだろう。
……そう、思っていた。