モノクロ
 

私が言葉を紡ごうとした瞬間、先輩の携帯の着信音がその場にけたたましく鳴り響いた。


「!」

「あ、わりぃ。電話」


先輩は“ちょっと待ってて”と言うように手を軽く上げ、携帯を持ってざわめくフロアから出ていく。

私は見えなくなるまでその後ろ姿を追い、見えなくなった瞬間、はぁ~と息をついて体の力を抜いた。

……先輩はどういう気持ちであんなことを言ったのかな。

いくら冗談だと言っても、嫌いと思ってる人には「付き合ってみる?」なんて言ったりしないよね?

こうやってご飯にも誘ってもらえたし、楽しそうにしてくれてると思うし、少しは気に入ってもらえてるって思ってもいいんだよね?

マンガみたいに簡単にうまくいくわけがないことは、ちゃんとわかっているつもり。

私、身長は低いし、お肉を人よりもちょっぴり多く蓄えた体で、スタイルがいいというわけでもない。

女子力の欠片もなければ美人でもないし、色気仕掛けなんか逆立ちしたって無理。

自分に自信なんて、これっぽっちも持っていないんだ。

でも何となくだけど、これを逃したらこの先恋はできないような気がするんだ。

未来のことなんてわからないけど、先輩のことをもっともっと好きになる予感がする。

だから、頑張れたら、って思う。

先輩は好きな人はいないって言ってたし、可能性はゼロじゃない。

……恋愛からすごく遠ざかっている私だけど、頑張ってみてもいいのかな……?

 
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