モノクロ
「──さきこ」
「ひぇ!」
急に聞こえてきた声に、私の身体が跳ねた。
「ぷ。何そんな驚いてんの?」
「いや、あの、急に先輩の声したから驚いちゃって」
「お化けか、俺は。くくっ」
ぽんぽんと私の頭を撫でた後、先輩はさっきと同じように私の目の前の席に座り、ウーロン茶を飲み干す。
その姿をぼんやりと見ていると先輩の視線がふと前を向き、目が合った。
「!」
「さてと。そろそろ帰ろっか。いい時間だし」
「……あ、」
「楽しかったよ。急に誘ったのに、ありがとな」
にこっと笑い掛けてくる先輩を見ながら、さっきとは人が変わってしまったみたいだと思った。
あんなに酔ってたのに、今はすごく普通だ。
いつから酔いが覚めてたのかな。
……っていうか、この雰囲気でさっきの話にはもう戻れないよね……。
話を掘り返して気まずくなるのも嫌だし……。
私はもやもやとしてしまう思考を振り切り、先輩に向かって笑顔を向けた。
「私もすごく楽しかったです! ありがとうございました」
「ほんと? それなら良かった。また飲もうぜ」
「はいっ! 是非っ」
「くくっ、いい返事」
カタンと椅子が音をたてて先輩が立ち上がるのを合図に、私も立ち上がった。
その瞬間、目の前がゆらりと揺れた。
……あれれ? 何だ、これ……。