モノクロ
大通りに出ると、一気に人が多くなった。
この辺りはたまに歩くけど、いつになってもこの人だかりには慣れない。
先輩とはぐれないように、人波を必死に避けながら歩く。
「さきこ」
「へっ?」
名前を呼ばれた瞬間、私の手が先輩の大きな手に包まれた。
私は慌てて先輩の名前を呼ぶ。
「あの、先輩っ!?」
「さきこ、ふらふらしてるしどっか引きずられていきそうで危なっかしい」
「うっ、すみません。チビなもので……」
「ははっ、そんなこと言ってないじゃん。こっちでいいんだよな?」
「……はい。です」
「ん。りょーかい」
先輩の行動はすごく自然で、一言で言うと“慣れてる”って感じがした。
先輩って、誰にでもこういうことするのかな?
それとも、彼女によくしてた、とか?
その様子を想像すると、何だか胸が痛くなった。
私の身体が熱いだけなのかもしれないけど、繋がれた先輩の手は少し冷たくて。
先輩と同じくらいお酒は飲んでいるはずなのに、この体温の差は何なのかな。
外の空気と先輩の手で冷やされているはずなのに、それに反して、私の体温はさらに上がっていった。