モノクロ
大きな道路からほんの少し離れただけで車通りも人も少なくなり、虫の音がりんりんと聴こえ始めた。
私の歩くスピードに合わせてくれているのか、先輩はゆっくりと歩いてくれている。
人混みから抜けたけど、まだ手は繋がれたままだ。
胸がドキドキして体の熱はなかなか引いてくれないけれど、先輩と触れ合っていられることが嬉しくて。
たとえ先輩がそういう人だとしても、この時間が幸せだからいい……なんて思っちゃう私って、バカなのかな……。
でも、そんな幸せな時間ももうすぐ終わってしまう。
私の住むマンションはすぐ目の前だから。
「……先輩」
「うん?」
「私のマンションここなんです。送ってくれてありがとうございますっ」
「へー。ほんとに会社から近いな」
「でしょ? でも少し駅から離れてるし、家賃は結構安いんですよ。公園もすぐそばにあって自然もあるからすごく気に入ってるんです。あ、先輩もここに住みます? ……なーんて」
くすくすと笑いながら、冗談めかして言う。
先輩も冗談として受け取ってくれると思っていたのに……先輩から返ってきた言葉は思いもよらないものだった。