モノクロ
企画部の同僚はみんな帰ってしまっていてここにいるのは私だけなので、開くはずのない扉の音にビクッと体が跳ねてしまう。
誰だろう?と思いながらも、期待が膨らんでいくのを感じる。
もしかしたら、紀村先輩かもしれない……。
ドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、そっとパーティションの向こうにある扉の方を覗き込む。
「あ、やっぱり、さきこが居たんだな。お疲れ」
「お疲れ様です、先輩っ!」
予想通り会いたい人がそこにいて、私の頬が嬉しさを隠しきれず緩む。
「必要な資料を取りに戻ってきたら外から7階に電気ついてるのが見えてさ。もしかしたら、さきこがまた頑張ってるんじゃないかと思って」
「……っ!」
わざわざ私の様子を見に来てくれたってこと……?
先輩の気持ちが嬉しくて仕方なくて、胸の奥から熱い想いがこみ上げてくるのを感じる。
先輩はオフィス内に入ってきて、私の目の前まで来てくれた。
すぐ目の前には優しい笑顔。
大好きな笑顔。この笑顔にずっと会いたかったの。
「また無理してない?」
「はい。大丈夫です! 今日はもう帰ろうと思ってたところで」
「そっか。それならいいけど。ってもう10時回ってるけどな」
「確かに、そうですねっ」
くすくすとふたりで笑い合う声がさっきまで静まり返っていたオフィスに響く中、心が温かくなっていくのを感じる。