モノクロ
先輩のことを見つめてしまっていると、先輩の視線がふと私のデスクに落ちた。
そこにあるのはさっき完成したばかりの企画書。
心臓がドキッと音をたてる。
「さきこ、もしかして、企画書完成した?」
「はい……っ! ついさっきできたばかりで。出来立てホヤホヤです!」
「マジで!? やったじゃん! おめでとう!」
「ありがとうございます……っ」
感極まって涙が出そうになりながら、私は満面の笑みを向けてくれる先輩に感謝の気持ちを込めて頭を下げる。
「なぁ、見てもいい?」
「あっ、はい! ぜひっ」
デスクの上の企画書を手に取り、先輩の目の前に丁寧に差し出す。
先輩は「はい」といつもよりも低い声で言い、企画書を手に取った。
部長に渡す時も緊張するはずだけど、それ以上に緊張しているんじゃないかと思う。
相手は先輩だし、初めて書いた企画書を、初めて人に見てもらうんだから。
真剣に読んでいく先輩のことを、ドキドキしながら見つめる。
文字を追い掛ける先輩の目線がふと止まると、どこかおかしいところがあったのかなと思ったりして、心は全く落ち着かなかった。
──10分ほど経った頃、先輩が企画書を最初のページに戻した。
「はい」と渡してくれる。
「うん。頑張ったんだな、さきこ」
「っ!」
先輩からの労いの言葉に、言葉が詰まった。
読んでもらったお礼を言わなきゃいけないのに、声になってくれない。
「たぶん指摘されるところはあると思うし、まだ検討するべきところもあると思うけど、さきこの熱意は絶対に伝わる。俺はいいと思ったよ。売りたいと思った」
「……ありがとうございます……っ!」
「うん」
自分では達成感があっても、実際はこれはただの入り口でしかないってことを頭のどこかではちゃんとわかっていて。
他の企画部の同僚に近付くためには、もっともっと頑張らないといけないんだ。
そう思いながらも、今はとにかく先輩の言葉がすごく嬉しかった。
これまでの2週間を認めてもらえた気がしたことも大きいけど、誰よりも認めてほしかった人だから。