モノクロ
 

「……。」


ドアからオフィス内を覗いているのは、黒縁メガネをかけたスーツ姿の男の人。

ごく普通の人の姿に私はほっと胸を撫で下ろす。

ドアを開けたってことは幽霊ではないだろうし、挙動不審でもないから泥棒さんってわけでもなさそうだよね……。きっと……。

って、マンガや小説じゃないし変なものはそうそう出てこないか……。

はぁ、と息を吐いて安心した時、よく通る声が部屋の中に響いた。


「あのー、誰かいます?」

「っ! はっ、はいはいはいっ! いますいますっ」


私はビクッと身体を震わせて反射的に立ち上がる。

手をこれでもかというくらいビシッと天に向かって掲げて慌てて答えると、その声に男の人が目を丸くして私の方を向いた。


「あ、なんだ、良かった~。何も音がしないし幽霊でもいるのかと思ってビクビクでしたよー」

「!」


男の人の顔に、ふにゃ、という擬音が似合うくらいのホッとした笑顔が浮かんだ。

男の人なのに、幽霊が怖いのかな?

何かかわいくて、ぷっと吹き出しそうになってしまった。


「……一応人間なので安心してください」

「それは良かった」


男の人はにっと笑ったかと思えば、「失礼しまーす」と言ってオフィス内に入ってきて、きょろきょろとオフィス内を見渡す。

男の人の顔には、明るい笑顔が浮かんでいて、それは周りの空気まで明るく感じるくらいの笑顔だと思った。

こんな時間だというのに全く疲れた様子を感じさせないその笑顔に、私の心臓がドキンと跳ねた。

……え、“ドキン”って、何?

 
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