モノクロ
「聞いたよ。紀村、佐々木さんと仲いいらしいな」
「さっ、佐山さんっ!?」
佐山さんから突然飛び出してきた言葉に慌てた私は、咄嗟に佐山さんの腕を掴んだ。
ニヤリと笑う佐山さんが何を考えているのかわからなくて、変なことを言い出しませんように!と必死に祈る。
私の焦りに反して、二人は淡々と話を進めていく。
「俺と佐々木さんと同じ大学出身で、話が合ってさ。ほら、俺と同じ大学出身の人間がいないって言ってたの、覚えてねぇ?」
「あぁ、何か言ってたな。そういうことか」
「そ。つーか、佐々木さん、あんまり残業させんなよ? よく一人で残ってるみたいだしさ」
「!」
突然話の矛先が私の仕事のことに向いて、驚いてしまう。
っていうか、どうしてフった相手なのに、そんな風に気遣うような言葉を言ってくれるの?
さらりとした気遣いが嬉しくて、涙が出そうになった瞬間、佐山さんの目線が私を向いた。
「へぇ。紀村にチクったか」
「!! そ、そんなことしてません!」
「くくっ。へぇ、佐々木さんは佐山のからかわれ対象だったんだな」
「俺の、じゃなくて企画部のマスコット的な存在ってやつだよ。佐々木さん、仕事がさばけるからついみんな頼るし。気を付けとくよ」
「うん、そうしてやって」
ふと笑みを溢した先輩の優しさに胸がきゅんとした時、上に行っていたエレベーターが下りてきて扉が開いた。
その音に反応してはっと我に返った私は、我先にとエレベーターに乗り込み、扉が閉まらないように開くボタンを押す。
先輩と佐山さんは乗り込みながら、何やら会話を始める。
「あ、そうだ。紀村、そのうち飯でも食いに行かないか? 若菜と梢も連れてくるから。いつか、梢に会いたいって言ってただろ?」
「マジで? メシ行こーぜ! すっげぇ梢に会いたい! 二人とも元気か? もう1年くらい会ってねぇもんな」
「元気すぎて困るくらいだよ」
営業部のある4階と企画部のある7階のボタンを押してから、二人がエレベーターに乗り込んだのを確認して、私はエレベーターのドアを閉める。