モノクロ
佐山さんから先輩の話を聞いた時は、先輩のことをよく知らない風……というか、誰かに聞いた話っぽく感じたけど、もしかして二人って意外と仲が良かったりするのかな。
仲良くなければ、会社の人とプライベートで会わないだろうし、ましてや奥さんやお子さんとご飯に行くなんてこともないだろうし。
「あぁ、そっか。されなら佐々木さんは若菜の後輩にもなるんだな」
「え?」
「若菜と紀村は大学の同期なんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。佐山の結婚相手が若菜って知った時は驚いたけどな。世間は狭いって」
「あいつも相当驚いてたな」
世間は狭いという驚きもあるけど、それ以上に気になったことがあった。
佐山さんの奥さんのこと、「若菜」って呼び捨てしてるんだ……。
名前で呼ぶくらい仲がいいってことだよね……。いいなぁ……。
って、相手は佐山さんの奥さんなのに、何考えてるんだ、私っ。
……でもやっぱり羨ましい。
だって、「さきこ」って呼ばれるようになった以上、彼女にでもならない限りはどんなに頑張っても、私はただの後輩の「さきこ」止まりってことだから。
しかも今は「佐々木さん」って呼び方だし……。自業自得なんだけどさ……。
「来週末か再来週末あたりはどうだ?」
「んー、うん。たぶん大丈夫かな」
「了解。じゃあ、近いうちにまた連絡する」
「あぁ」
そう言えば、よく考えたら私って先輩との連絡手段すら何も持ってないんだな……。
私が持っているのは、“偶然逢う”という手段だけ。
たとえ連絡先を知りたいと思っても、今さら教えてもらえるわけもなくて。