モノクロ
 

……先輩の言う通り、やっぱり私は先輩のことをほとんど何も知らないんだ。

改めて、自分が思っている以上に先輩との距離があることに気付く。

切なさが生まれた時、エレベーターの速度が落ち4階に到着した。


「じゃあ」

「おう」


エレベーターを降りていく先輩の姿を見るけど、先輩と目が合うことはない。

これからはこんな風に、先輩をこっそりとただ見つめることしかできなくなるのかな……。

先輩の背中をぼんやりと見ていると、先輩の目線がふと私に落ちてきた。


「っ!」

「残業はほどほどにしとけよ?」

「は、はいっ! ありがとうございます……!」


無駄に大きくなってしまった私の声に先輩はくすりと目を細めて笑い、そのままエレベーターの向こうに消えていった。

小さく息をつく。

……もう、ほんと、先輩はズルい。

何でそんな気遣うような言葉を掛けてくれるの? 何でそんなに優しい表情を見せてくれるの?

その答えは“後輩だから”という簡単なものだってことはちゃんと頭では理解しているはずなのに、今の私にはその優しさが苦しく感じてしまう。

苦しいけど、でも……やっぱり私は先輩が好き。

フラれたからって、そんなに簡単には諦められないよ……。

 
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