モノクロ
 

「あ、そうだ。俺、不審者じゃないんで」

「へ?」

「いや、名乗ってなかったし、そう思われてたら嫌だなと。俺、営業第2グループの紀村(きむら)って言います」

「あっ、私は企画の佐々木です」

「佐々木さん、ね。……入社何年目です?」

「え? 今年でえっと……5年目です」

「よっしゃ。やっぱり後輩!」

「は、はぁ」


ガッツポーズをするその人に、私はただ頷くだけだった。

何で嬉しそうなんだろう?


「この時間まで敬語使いたくないからな。疲れるし。俺、10年目だから、佐々木さんの5年先輩かな」

「はぁ……」


なるほど、そういうことか……。

ていうか、5つ上ってことは、31歳とかってことかな?

もっと若く見えるけど、営業の人ってそんなものなのかな。

じっと見ていると、隣の席からカラカラと椅子を引き出して、満足げな表情をしたその人……紀村さんが椅子の背を抱くようにして座った。

 
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