殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 丁字路を明智寺方面に曲がる。
静かな細い緩やかな坂道に足が向く。

電車の音がする。
振り向く陽子。

西武秩父駅へ向かう下りの電車がスピードを緩めて横瀬駅に入って行く。

その先に目を移すと、武甲山がドンと構えている。


(こんな……秩父の象徴的な山を……こんな風にしてごめんね)
陽子はまだ友人に誤っていた。


陽子はやっと歩き出した。


(お姉さん又びっくりするかな?)
それが気掛かり。

陽子が何の連絡もしないで訪ねて行くと、何時も驚く純子。


『お母さんに何かあったの?』
と決まって聞く。
解っていながら又やってしまった陽子。
幾分俯き加減になる。

そんな陽子に道沿いの花が少し勇気をくれる。


(ま、遣ってしまったから仕方ない。なるようになるか……)
ようやく幾分かは開き直った。


陽子が横瀬に足繁く通いつめるには理由があった。


それは仲の良い姉夫婦を観察することだった。


それはそれは羨ましくなるほどのラブラブカップルだったのだ。




 夏の花と秋の花が混在している道端。


それらに気を取られながら歩いいて行くと、目の前に広がるセメント工場。

下りきった所に白いガードレールの橋がある。小さな川がその下をを流れている。


その橋を渡ると、下り坂が一転する。


暫く続く上り坂。
上りきった所には丁字路。

目の前の矢印看板には札所九番と武甲山。
そしてさっき降りた横瀬駅の名前。

陽子の姉の嫁ぎ先は、その少し手前にあった。


「あれっ何だろう?」

陽子は看板の上に気になる物を発見して近付いた。


「カワセミ? ……だよね? これ。やだ、何で今まで気づかなかったんだろ? 横瀬にいるの?」
陽子は暫くそれを見とれていたが、首を傾げながら姉の嫁ぎ先の堀内家に足を向けた。


陽子は懐かしそうに、ドアを開けた。




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