殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
その先に蕎麦屋があった。
店先の縁台に老人が二人座っていた。
軽く会釈すると、笑いながら挨拶してくれた。
「鷺ノ巣を訪ねたいのですが、此処ですか?」
「ああ、此処だよ」
その答えを聞いて、翼は目配せをした。
陽子は俯きながら翼のお尻を軽く抓った。
翼は笑いをこらえていた。
そのずっと先の橋まで行ってみる。
「この先にミューズパークがあるんだって」
「それじゃあの赤い橋とも繋がっているのか?」
「そうね。きっと繋がっているね」
陽子は以前歩いた国道デートの最終点・羊山公園で眺めた秩父市内の風景を思い出していた。
二人は又荒川にかかる鷺のオブジェのある橋の近くに戻っていた。
結局何も聞けなかった。
祖父の生家の場所も、赤穂浪士の話も。
「でも確かにお祖父ちゃんが言っていたんだ」
「そうよね、母も言っていたのよね」
「だから、此処に居たことは間違いないと思うの」
「何の話だい?」
さっきのお店の縁台から声が聞こえた。
「この鷺ノ巣に、赤穂浪士の関連した人達が住んでいたと聞いて訪ねて来たのですが」
翼は思い切って訪ねてみた。
「もしかしたら余所を向いてたお墓のことかい?」
「余所?」
「元禄って年号の入ったお墓だけど。お墓ってのはみんな同じ方向なんだけど……」
「それってもしかしたら、赤穂浪士の……」
二人は顔を合わせた。
「あのー、そのお墓って今何処に?」
「ああ、確かもう無いよ」
「無いのか……」
残念そうに翼が言った。
「でも来て良かったね。私思うのだけど、そのお墓きっと泉岳寺か赤穂を向いてたんじゃないのかな?」
陽子らそう言いながら、鷺ノ巣の山々を眺めていた。
この何処かに確かにあったと言う、そのお墓に権威を示しながら。
翼も感激しながら、両手をいっぱいに広げた。
勝の産まれ故郷の空気を体全部に取り入れるために。
店先の縁台に老人が二人座っていた。
軽く会釈すると、笑いながら挨拶してくれた。
「鷺ノ巣を訪ねたいのですが、此処ですか?」
「ああ、此処だよ」
その答えを聞いて、翼は目配せをした。
陽子は俯きながら翼のお尻を軽く抓った。
翼は笑いをこらえていた。
そのずっと先の橋まで行ってみる。
「この先にミューズパークがあるんだって」
「それじゃあの赤い橋とも繋がっているのか?」
「そうね。きっと繋がっているね」
陽子は以前歩いた国道デートの最終点・羊山公園で眺めた秩父市内の風景を思い出していた。
二人は又荒川にかかる鷺のオブジェのある橋の近くに戻っていた。
結局何も聞けなかった。
祖父の生家の場所も、赤穂浪士の話も。
「でも確かにお祖父ちゃんが言っていたんだ」
「そうよね、母も言っていたのよね」
「だから、此処に居たことは間違いないと思うの」
「何の話だい?」
さっきのお店の縁台から声が聞こえた。
「この鷺ノ巣に、赤穂浪士の関連した人達が住んでいたと聞いて訪ねて来たのですが」
翼は思い切って訪ねてみた。
「もしかしたら余所を向いてたお墓のことかい?」
「余所?」
「元禄って年号の入ったお墓だけど。お墓ってのはみんな同じ方向なんだけど……」
「それってもしかしたら、赤穂浪士の……」
二人は顔を合わせた。
「あのー、そのお墓って今何処に?」
「ああ、確かもう無いよ」
「無いのか……」
残念そうに翼が言った。
「でも来て良かったね。私思うのだけど、そのお墓きっと泉岳寺か赤穂を向いてたんじゃないのかな?」
陽子らそう言いながら、鷺ノ巣の山々を眺めていた。
この何処かに確かにあったと言う、そのお墓に権威を示しながら。
翼も感激しながら、両手をいっぱいに広げた。
勝の産まれ故郷の空気を体全部に取り入れるために。