殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
東大合格発表の日。
会場で陽子は翼の合格を確認していた。
薫と翔の姿もあった。
満面の笑みを浮かべた薫を見て、翔も合格したのだと思った。
(わー!! 初めて見た。みんなの言う通りそっくりね)
陽子が見ている事に気付いた翔は、鋭い眼孔を陽子に向けた。
――ゾクッ!!
陽子は背中に寒気を覚えていた。
翼は既に狂っていた。
合格しても尚、勉強をやめようとしない。
その異様な執念が、陽子に不安を抱かせた。
時々陽子への愛の深さに押し潰されそうになる。
その度孝への激しい憎悪が殺意に変わる。
翼はもう自分を抑えることが出来なくなっていた。
勉強する代わりに孝の殺害方法を考えた。
どうせやるなら完全犯罪。
翼は真剣に親殺しを企んでいた。
陽子は純子と居間でコーヒーを飲んでいた。
日曜日なのに、忍は出掛けていた。
新年度からの配置転換で、部長になる忍。
そのための送別会だった。
でもそれは名目で、ただ単に飲みたいだけだった。
忍も男だった。
幾ら女房を愛していても、言い出せないこともあったのだ。
愛すればこそ、言い出せないこともあったのだ。
それは、翼のことだった。
忍は翼が心配でならなかったのだ。
でも言えない。
言えるはずもなかったのだ。
忍は翼に二面性を感じていたのだ。
「翼、どうしちゃったんだよ?」
遂に言葉がついて出た。
「え、何何? 東大が合格した甥子さんのこと?」
部下が声を掛けた。
人の秘密は蜜の味。
一言でも話すとたちまち噂になるだろうと忍は思い、それで止めることにした。
それでも部下はしつこく聞いてきた。
「いや、何でもないよ。ただ合格したって言うのに受験勉強をやめないんだ」
「勉強がよっぽど好きなんですね」
「そうなんだ。俺と親父で勉強みてやっていたんだけど、何時もクラスで一番だったんだ」
「なあんだ、ただの自慢話ですか?」
忍はハッとした。
気付かれないようにと思って、予防線を張った行為の愚かさに……
そして安心したように又飲み出した。
「そうだ。アイツ本当に勉強が好きだったんだ」
「羨ましい。そうだ、甥子さんの東大合格おめでとうございます」
一人が言い出した。
「おめでとうございます」
それは全体の言葉になっていた。
会場で陽子は翼の合格を確認していた。
薫と翔の姿もあった。
満面の笑みを浮かべた薫を見て、翔も合格したのだと思った。
(わー!! 初めて見た。みんなの言う通りそっくりね)
陽子が見ている事に気付いた翔は、鋭い眼孔を陽子に向けた。
――ゾクッ!!
陽子は背中に寒気を覚えていた。
翼は既に狂っていた。
合格しても尚、勉強をやめようとしない。
その異様な執念が、陽子に不安を抱かせた。
時々陽子への愛の深さに押し潰されそうになる。
その度孝への激しい憎悪が殺意に変わる。
翼はもう自分を抑えることが出来なくなっていた。
勉強する代わりに孝の殺害方法を考えた。
どうせやるなら完全犯罪。
翼は真剣に親殺しを企んでいた。
陽子は純子と居間でコーヒーを飲んでいた。
日曜日なのに、忍は出掛けていた。
新年度からの配置転換で、部長になる忍。
そのための送別会だった。
でもそれは名目で、ただ単に飲みたいだけだった。
忍も男だった。
幾ら女房を愛していても、言い出せないこともあったのだ。
愛すればこそ、言い出せないこともあったのだ。
それは、翼のことだった。
忍は翼が心配でならなかったのだ。
でも言えない。
言えるはずもなかったのだ。
忍は翼に二面性を感じていたのだ。
「翼、どうしちゃったんだよ?」
遂に言葉がついて出た。
「え、何何? 東大が合格した甥子さんのこと?」
部下が声を掛けた。
人の秘密は蜜の味。
一言でも話すとたちまち噂になるだろうと忍は思い、それで止めることにした。
それでも部下はしつこく聞いてきた。
「いや、何でもないよ。ただ合格したって言うのに受験勉強をやめないんだ」
「勉強がよっぽど好きなんですね」
「そうなんだ。俺と親父で勉強みてやっていたんだけど、何時もクラスで一番だったんだ」
「なあんだ、ただの自慢話ですか?」
忍はハッとした。
気付かれないようにと思って、予防線を張った行為の愚かさに……
そして安心したように又飲み出した。
「そうだ。アイツ本当に勉強が好きだったんだ」
「羨ましい。そうだ、甥子さんの東大合格おめでとうございます」
一人が言い出した。
「おめでとうございます」
それは全体の言葉になっていた。