殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 此方は居間の二人。

今陽子が飲んでいるコーヒー。


そのコーヒーが……
ある記憶を導き出す引き金になろうとしていた。


脳裏に又あの夜のことが浮かび、陽子は思わず赤面する。


(でも何故翼は……何であんなに……)


思考回路を全開にして、陽子は疑問の糸口を探していた。


そして忘れていた事実を思い出す。


「お姉さん。一月四日のことなんだけど」

陽子は疑問を純子にぶつけようとしていた。


「一月四日?ああ翼さんのお父さんが来た日?」

頷く陽子。


「それが記憶がないの。なんかもの凄く眠くて」

純子は首を傾げる。


「そう言えば私ももの凄く眠くて。確かお義父様の持参したケーキを食べて……」




 回想。
居間。
孝。
ケーキ。
激しい眠気。


回想。
風呂場。
翼。
シャワー。
激しい愛撫。


回想。
孝。
激しい眠気。


「あ、あーっ!」

回想。
翼。


『殺してやる! 殺してやる!』


「あ、あーっ!!」


回想。
秩父神社。


『いい娘じゃないか、翼には勿体無い』


「あ、あー〜っ!!!!」
陽子はお腹を押さえた。
生理が止まっていた。
陽子は翼の子供を妊娠したと思いながらも、まだ誰にも告げていなかった。


「イヤーー〜!!!!!!」
陽子はやっと真実に辿り着いて、狂ったようにのた打ち回った。

純子は何が何だか分からずただオロオロしていた。




 陽子は翼の激しい愛撫の意味を初めて理解した。

孝に犯された体を清めて、自分の愛で浄化する。

翼の深い愛に感謝した。

それと同時に……
孝に対する激しい憎悪が陽子の心の中を次第に支配していった。




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