殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 翔は前日から、市内のホテルで恋人の加藤摩耶の両親と食事をしていた。

翔が此処を選んだのには訳があった。
自分の家の財産を両親に見せておきたかったのだ。




 合格発表の日。翔の隣で飛び跳ねている摩耶を見て、一目惚れをしたのだった。

薫を先に帰して、翔は摩耶に声を掛けた。


「まさか私をこんなに夢中にさせるなんて」
摩耶が言った。

翔は突然立ち上がった。


「お嬢様と結婚させてさい!」
翔は両親の前で手を付き、正式の結婚をの申し込みをした。

翔はプロポーズをするために招待したのだった。


翔が気に入った摩耶の両親は、この申し込みを快諾したのだった。




 翌日。
翔が帰宅した時、家に電気が点いていなかった。

異常を感じた翔は両親の寝室に行った。

そこには誰もいなかった。次に居間に行った。

そこで翔が見た物は、血まみれになった両親の遺体だった。


「ありがとう翼。やっと殺ってくれたな。母まで一緒とは、相当恨みが溜まっていたのだろうな。手間が省けて良かったよ」

翔は遺体の前で不適な笑を浮かべていた。


翔はデートの前日から出かけて摩耶と食事をすると事前に翼に知らせていた。

それは両親を翼に殺害させるためだったのだ。




 直ぐに警察による現場検証が行われた。
死因は鋭利な刃物による殺傷。


凶器は遺体脇に置いてあったサバイバルナイフと思われた。


(えっー!? サバイバルナイフ? もしかして……あのナイフか?)


その後でビニール袋に入った現物を見せられて翔は驚いた。
それは自分が護身用に通販で購入した物だった。


あのオルゴールの底にしまっておいた物だった。


「翼めよくも!」

翔は警察官の前で崩れ落ちた。




 サバイバルナイフからは翔の指紋しか検出されなかった。

マスコミは一斉にこの事実を放送した。


《犯行推定時間午後十二時より三時の間》


《容疑者は被害者の長男》


《凶器のサバイバルナイフから指紋検出》


《アリバイ有り》


《トリックか?》


《完全犯罪か?》


ヒートアップした報道も、容疑者翔の釈放で下火になっていった。


前日から摩耶とのデートのために外出していた翔。

おまけに第三者の目撃情報もあった。

いくらトリックを使ったとしても、犯罪は不可能だと結論されたからだった。




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