殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 六月初旬。
荒川沿いの結婚式場で、日高翔と加藤摩耶の結婚式が執り行われようとしていた。


摩耶がジューンブライトを希望したからだった。


タキシードを着た翔がヴァージンロードを歩いてくる摩耶を待ち受ける。


翔は震えていた。
緊張しているのかと誰もが思うほど翔は落ち着きがなかった。

時々陽子の顔を見る。
陽子の元へ今にも飛んで来そうな翔。



それはあの日の、やつれた姿のままだった……




 陽子はハッとした。


(えっー嘘!? 翔さんの体の中に翼がいる!)

その瞬間、陽子は愕然とした。
翼の頭のハゲが小さかったのは、翼が翔だったからなのか?

でもあの甘え方は確かに翼だった。
陽子は自分の腕の中の僅かなぬくもりを信じて自分自身を抱き締めていた。

翔は翼と戦い、翼は翔と戦って陽子に会いに来る。

陽子はそう思った。


「だからあんなに疲れていたのね」

陽子は翼の優しさを改めて実感した。
魂だけになっても、尚陽子を愛する翼。

その大きな心に触れて、陽子は翼こそ太陽だと思った。


(翼今何処にいるの? 勿論翔さんの中よね? ねぇ翼……貴方の身体は何処にあるの?)

陽子は翔の中の翼に呼びかけた。

そして陽子の目は、翼だけを見つめていた。


それでも陽子は、思いすごしであってほしいと願っていた。
魂が翔の中にあると言うことは、翼はもうこの世に居ないことだと思われたからだった。




 「摩耶ったらうまくやったわね」

控え室の隅で、友人らしい三人組が話していた。


「いいわね。玉の輿だもの」


「日高君いい男だし。お金持ちらしいし」


「もしかして、財産を狙って近づいたのかな? だって殺人事件のあった家何でしょう?」


陽子が聞いているとも知らす、三人組は言いたいことを言っていた。


「摩耶さんてそう言う人だったの?」

陽子は溜め息を吐きながら三人から距離を置いた。




 翔は翼と戦っている。

それに気付いた陽子。


陽子は涙をこらえることが出来なかった。


(翼!! 今何処に居るの!? 翼逢いたいよー!!)




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