殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 翔は翼を探していた。
翼の遺体を探していた。

あの日。
日高家を訪ねた翼を翔は殺してしまったのだ。
でも次の瞬間、翼の体は翔の前から消えていた。
跡形もなく消え去っていたのだ。


だから必死で捜索していたのだった。


やっとそれを発見した時翔は狂った。
遺体が、カフェの業務用冷凍庫の隅に隠されていたからだった。


(一体誰が?)
答えは出ない。
でも察しはついた。

目立つことなく遺体を隠せる人物に心当たりがあった。


(でも、一体誰が殺ったのか? 勿論自分だ。自分のはずだ。両親を殺したのが翼なのだから……遺体を隠せるのは自分しかいないはずだ。でも俺は此処へは来ていない……)

翔は自問自答しながら、目の前に居る翼の遺体を見ていた。


(でも俺があの時、コイツを殺ったのに間違いはないはずだ……)

翔には翼をサバイバルナイフで刺した記憶が存在していた。
だからそう思ったのだった。

でも此処に隠した記憶がない。


では一体誰が何の目的で運んだのだろう?
翔は半狂乱になりながら模索した。

でも答えは出ない。

イヤ、本当は心当たりがあった。
でもあり得ないことだったのだ。


翔は翼を抱いた。
翼の遺体をを抱いた。凍り付いた翼を抱いた。

それはまるで懺悔でもするかのように、とりすがって抱いた。


でも実際にはあの時翼は死んではいなかったのだ。

翔が殺したと勘違いした者が、翼の体を冷凍庫に隠したために死亡してしまったのだった。

翔は翔で、死んだと思い込んでいた。


だから、翼を演じたのだった。
そう……
最初は演技だったのだ。


でも翼は自分が死んだとは思っていなかった。
翔が何時も全身をチェックしている姿見に写し出された虚像を……

翼は自分だと思い込んだのだった。




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