殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 その時、彼女達の一人と目が合った。
彼女は他の女性に目配せをして、孝を堕とそうと相談を始めたようだ。


自宅にお持ち帰りにするのは流石に気が引けるのか、手頃なラブホにでも誘惑する作戦に出たようだった。


テニスで鍛えた筋肉と体力に自信はあっも、一人で大人数の相手は出来ない。
そう判断して、孝はそそくさに退散した。

それでも未練は残る。
孝はトイレの個室の中で彼女達とのプレイを想像しながら、もて余した身体の処理に没頭していた。




 その日以来、主婦達のことが頭から離れない。
スクールに来る女性の視線が気になり、彼女達と重ね合わせるほどになっていたのだった。


確かにあの主婦達は孝に興味を抱いたようで、熱い視線を送っていたのだ。


もしあの時誘いに乗っていたなら……
そんなことばかり考えるようになっていたのだった。


孝は確かにあの時主婦達に興味を覚えていた。
香を抱きたくても抱けない現実があったからだ。
香は妊娠した第二子を流産させていたのだ。


そんな状態の妻を放っておいて其処に居ることが、後ろめたかったのかも知れない。


香の流産の原因は翼だった。
翼は翔のように抱いてもらいたくて香にしがみ付いたのだ。
その時香はバランスを崩しお腹をテーブルの角で強打してしまったのだった。


抱いていた翔を庇うことで精一杯だった香。
だから尚更翼を疎ましく思ったのかも知れない。




 その日から……
好奇心の目で生徒を見るようになった孝。

止められない感情が噴き出す。
そしてカフェ奥の個室で、短期型睡眠薬を使った実験が執り行われる。


コーヒーの中に入れられた睡眠薬とアルコール。
それが熟睡を誘う。

そしてカフェインがスッキリした目覚めを誘導する。


主婦達は何事も無かったの如く……
却って気分爽快の状態だったのだ。


勿論、完全犯罪だ。
孝は何一つ証拠が残らない工夫をしてこの卑怯極まりない実験を繰り返していたのだった。


孝はあの日果たせなかった欲望をこのようにして叶えて行ったのだった。


だから誰も気付かず……

孝は益々調子に乗っていったのだった。




 そしてターゲットは陽子に向かう。
翼のモノになる前に奪いたかった。
孝にとっては陽子も、欲求を満たす道具に過ぎなかったのだ。


でもそれに失敗したから、却って燃えたのだ。
翼の居ない時を選んで本懐を遂げようと企んでいたのだった。



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