殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 その頃上町の日高家の近くでは、狭い路地に入って来た植木屋の車がユーターン出来ずに困っていた。


何度も何度もハンドルを切り返す運転手。
それを見かねた摩耶は、駐車場を使って良いと申した出ていた。


早速自分の車を奥へと移動させた。


昔はアパートだった日高家。

家だけでなく、駐車場も広かったのだ。
殺された孝は其処へ何台かの高級車を並べていた。
本当はそれがやりたくて、この場所に自宅を構えたのだ。

実は数日前に、摩耶と翔が気に入った物だけ残し殆ど処分した後だったのだ。


「奥さん、いやお嬢さんかな? いい人だね。よし! お礼に何か植えてってあげよう」

摩耶は手招きしていた手を止めた。


「うーん。そうだ、南天ある?」

車から降りて来た植木屋に摩耶は声を掛けた。


「あるよ!」

植木屋は手にコンパスを持ち、北東に向かった。


「ところで何故南天?」


「だって難を転化するって言うし」
摩耶は植木屋の質問に答えた。


「いやー、いい事言うね」
そう言いながら庭の隅を掘り出した。

そこはかって陽子を睡眠薬で寝かせた後孝が佇んでいた所だった。




 「ギャーー!!!!」
突然植木屋が悲鳴をあげて腰を抜かした。

慌てて摩耶が駆け付けて、植木屋が指差す先を見た。

そこには埋められた翼の小さな指が見えていた。

そしてその指の先には、白骨化した手があった。


翼の指は、その手の上に添えられていた。

まるで握り締めているかのように。




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