殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 そして自分は翼を演じるために頭を自ら傷付けてから、勝に近付いて行ったのだった。

翼の頭にあった小さなハゲはこの時出来た物だったのだ。


でもそれは移動する。余りにも神経を磨り減らしているために、円形脱毛症になったのだ。


『あの後、初めてお祖父ちゃんが言ってくれたんだ。辛かったら何時でも遊びに来いって』
翼が涙混じりで言う。


翼は気が付いた。
勝はその時翼の傷みを感じたのだと。
いくら気遣ったつもりでいても、勝にはお見通しだったのだと言うことを。

それは陽子との会話。

翔は翼になりすましていたから、そのことを忘れていたのだった。

だから翼は、薫に愛されていない事実をひた隠しにしていたのだった。


翔が翼になりすましているなんて薫は知らずに帰ろうと我が子を探した。

でもその時、翼の役をして勝と話している翔に気付いたのだ。


そう……
薫にはどんなに瓜二つでも翔が解るのだ。

それほど薫は翔を溺愛していたのだった。

何かがあったと薫は気付いて、周りを見回した。

その時……

大きな袋が目に入った。


そっとよけてみると、身動きしない翼が……


薫は、翔が翼を殺してしまった思ったのだった。

だから罪を隠すために……
翔に殺人者のレッテルを貼らなくするために、翼の遺体を始末しなくてはいけないと判断したのだった。


翼の振りをしている翔。

薫は泣きながら、遺体を隠すことを決めたのだった。

だから、まだ生きている翼を死んだと思い込んで袋に入れて隠して車に乗せたのだった。


家に戻った薫は、翼の体を袋に入れ臭いの漏れないようにある工夫した。

その後で……
カフェの奥にある業務用冷凍庫の中に翼を入れてしまったのだった。


そのために……
その行為によってで翼が亡くなったことを知らないで。


翔が見つけた翼の冷凍遺体。

誰が其処へ入れたのか察した時、翔はより深く母を愛したのだった。
だから、翼を犯人に仕立てあげようと思ったのだ。

翼が子供の時死んでいたのなら、両親を殺害したのは自分だと気付いたからだった。




 翔は愛する母を守るために、翼を生み出し自ら翼になった。

でもその事実を、翔自体忘れていたのだった。



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