殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
明智寺に向かう緩やかな坂道を、二人は並んで歩いていた。
白いガードレールの上にまで来ると、陽子は立ち止まった。
「此処が横瀬川?」
「ううん」
「じゃあ何て川?」
「知らない。横瀬川かも知れないし、違うかも知れない」
「もし此処が横瀬川でないとしても、確実に合流するね」
陽子はその小さな川の下流を眺めながら、そっと手を合わせた。
翼との未来を流れに託すように。
「あれっ!? 名前が書いてあるよ」
突然翼が言った。
ガードレールの根元に《このまさわ》の文字。
「やっぱりね。だって横瀬川がこんなに小さい訳がないもんね」
陽子は川の名前を確認するために屈んでいる翼の頭を撫でながら言った。
「まるで子供扱いだな」
顔だけ陽子に向けて翼が笑う。
――ドキッ!
(いやーん。どないしょ。翼……可愛い!)
どんどん愛しさが増す。
陽子はどうすることも出来ずに、翼の頭に手を置いたまま固まっていた。
明智寺の六角のお堂の中に入った二人は、祀られている仏像に手を合わせた。
その後どちらからともなくおみくじに手を伸ばした。
赤い小さなおみくじ。
代金は百円だった。
「これ位いなら僕にも払える」
翼は財布から百円玉を二枚出し料金箱に入れた。
「二人分?」
陽子が聞くと翼は頷く。
「おみくじかと思ったら違うわね。みくじだって」
良く見ると赤い巻紙に“みくじ”とあった。
「へー、知らなかった。お寺だからかな?」
そんな事を言いながら、中身を取り出す翼。
「小吉か。陽子と出会って変わると思っていたのに…… でも今までが大凶だったからな」
独り言のように呟く翼。
「何々。ぐわんもう叶(かな)ひがたし心正(こゝろたゞ)しければ後(のち)には叶(かなふ)也(なり)。えー意味不明だな」
みくじを読んでいる翼を暖かく見守りながら、陽子も中身を取り出した。
「わあー、私の方は大吉だって」
陽子ははしゃぎながら、翼に聞こえるように言った。
「そりゃー大吉に決まってるよ。だってこんな可愛い恋人が……」
でも陽子は口ごもった。
翼は次の言葉が聞きたくて全身を研ぎ澄ました。
「日高翼……さん。……と言う素敵な恋人が出来たんだもん、大吉じゃないとおかしいよ」
悪戯っぽく陽子が笑った。
白いガードレールの上にまで来ると、陽子は立ち止まった。
「此処が横瀬川?」
「ううん」
「じゃあ何て川?」
「知らない。横瀬川かも知れないし、違うかも知れない」
「もし此処が横瀬川でないとしても、確実に合流するね」
陽子はその小さな川の下流を眺めながら、そっと手を合わせた。
翼との未来を流れに託すように。
「あれっ!? 名前が書いてあるよ」
突然翼が言った。
ガードレールの根元に《このまさわ》の文字。
「やっぱりね。だって横瀬川がこんなに小さい訳がないもんね」
陽子は川の名前を確認するために屈んでいる翼の頭を撫でながら言った。
「まるで子供扱いだな」
顔だけ陽子に向けて翼が笑う。
――ドキッ!
(いやーん。どないしょ。翼……可愛い!)
どんどん愛しさが増す。
陽子はどうすることも出来ずに、翼の頭に手を置いたまま固まっていた。
明智寺の六角のお堂の中に入った二人は、祀られている仏像に手を合わせた。
その後どちらからともなくおみくじに手を伸ばした。
赤い小さなおみくじ。
代金は百円だった。
「これ位いなら僕にも払える」
翼は財布から百円玉を二枚出し料金箱に入れた。
「二人分?」
陽子が聞くと翼は頷く。
「おみくじかと思ったら違うわね。みくじだって」
良く見ると赤い巻紙に“みくじ”とあった。
「へー、知らなかった。お寺だからかな?」
そんな事を言いながら、中身を取り出す翼。
「小吉か。陽子と出会って変わると思っていたのに…… でも今までが大凶だったからな」
独り言のように呟く翼。
「何々。ぐわんもう叶(かな)ひがたし心正(こゝろたゞ)しければ後(のち)には叶(かなふ)也(なり)。えー意味不明だな」
みくじを読んでいる翼を暖かく見守りながら、陽子も中身を取り出した。
「わあー、私の方は大吉だって」
陽子ははしゃぎながら、翼に聞こえるように言った。
「そりゃー大吉に決まってるよ。だってこんな可愛い恋人が……」
でも陽子は口ごもった。
翼は次の言葉が聞きたくて全身を研ぎ澄ました。
「日高翼……さん。……と言う素敵な恋人が出来たんだもん、大吉じゃないとおかしいよ」
悪戯っぽく陽子が笑った。