殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
同情させるためなんかじゃない。
恋をさせるためなんかじゃない。
きっと愛してやって欲しかっんだ。
陽子はこの企みにまんまと乗せられた。
でもそれは自分でそうしたかったからなのだ。
(お姉さん、お義兄さんありがとうございます。翼を愛してくれてありがとう。翼に逢わせてくれてありがとう)
陽子は明智寺から見える堀内家に向かって、合掌をした。
精一杯の、感謝の意味を込めて。
案内人の説明に神経を集中させるお遍路達。
その片隅で翼と陽子もこっそり聞いていた。
「見かねた僧侶が親子にアドバイスをしたそうです。観音経の一説を教えてた上で、このお堂の中で一心にお祈りしたらどうかと。その通りにしたところ、急に目の前が明るくなったそうです」
「それでこのお寺を明星山と名付けたそうよ」
陽子が翼に耳打ちをする。
翼は驚いたように陽子を見た。
「もしかして、おじいちゃんに……」
陽子は頷いた。
「私おじさま大好き。姉がお義兄さんと出逢った時みんな反対したの。でもおじさまだけが理解してくれて、親戚を説得してくれたの」
「十歳違いだから?」
「それもあるけど、上司だったでしょう? 部下に手を出したとか、親戚中に色々言われてね。母と一緒に説得に走り回ってくれたの」
「ふーん。そうだったんだ」
「その時のおじさまカッコ良かった。私おじさま大好き! おじさまのためなら、おじさまの病気が良くなるためなら何でも出来るわ」
陽子は強く言い切った。
陽子は地蔵堂へ向かう前にさっきの井戸で手を洗おうと近付いた。
すると翼も真似をしに付いて来た。
二人は互いにポンプレバーを押し合った。
陽子の優しさが翼の心を暖かくしていた。
(陽子のためなら何でも出来る。陽子を守りたい!)
翼はこの時決意した。
愛された記憶のない翼。
(その心を愛で埋め尽くしてあげたい。その荒んだ心に、優しさを届けたい)
恋人たちは、互いの優しさを持ち寄って支え合うことを、それぞれの心の中で誓い合った。
恋をさせるためなんかじゃない。
きっと愛してやって欲しかっんだ。
陽子はこの企みにまんまと乗せられた。
でもそれは自分でそうしたかったからなのだ。
(お姉さん、お義兄さんありがとうございます。翼を愛してくれてありがとう。翼に逢わせてくれてありがとう)
陽子は明智寺から見える堀内家に向かって、合掌をした。
精一杯の、感謝の意味を込めて。
案内人の説明に神経を集中させるお遍路達。
その片隅で翼と陽子もこっそり聞いていた。
「見かねた僧侶が親子にアドバイスをしたそうです。観音経の一説を教えてた上で、このお堂の中で一心にお祈りしたらどうかと。その通りにしたところ、急に目の前が明るくなったそうです」
「それでこのお寺を明星山と名付けたそうよ」
陽子が翼に耳打ちをする。
翼は驚いたように陽子を見た。
「もしかして、おじいちゃんに……」
陽子は頷いた。
「私おじさま大好き。姉がお義兄さんと出逢った時みんな反対したの。でもおじさまだけが理解してくれて、親戚を説得してくれたの」
「十歳違いだから?」
「それもあるけど、上司だったでしょう? 部下に手を出したとか、親戚中に色々言われてね。母と一緒に説得に走り回ってくれたの」
「ふーん。そうだったんだ」
「その時のおじさまカッコ良かった。私おじさま大好き! おじさまのためなら、おじさまの病気が良くなるためなら何でも出来るわ」
陽子は強く言い切った。
陽子は地蔵堂へ向かう前にさっきの井戸で手を洗おうと近付いた。
すると翼も真似をしに付いて来た。
二人は互いにポンプレバーを押し合った。
陽子の優しさが翼の心を暖かくしていた。
(陽子のためなら何でも出来る。陽子を守りたい!)
翼はこの時決意した。
愛された記憶のない翼。
(その心を愛で埋め尽くしてあげたい。その荒んだ心に、優しさを届けたい)
恋人たちは、互いの優しさを持ち寄って支え合うことを、それぞれの心の中で誓い合った。