殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
陽子は幼子を模したような布で作られて吊してある物が気になって、小さなお堂に手を合わせていた。
側にあるのは、赤い被り物の地蔵菩薩。
その横の観音様に手を合わせ、陽子は二人の行く末を願った。
「お若いのに随分熱心ですね」
一行の一人が声を掛けて来た。
「おめでた?」
陽子の耳元で囁く。
陽子はビックリして女性を見つめた。
「だって此処確か、安産祈願の観音様よ」
「えっえー!?」
陽子は首を振りながら後ずさりをした。
でもその後で陽子はもう一度祈りを捧げた。
出来るなら……
翼との子供が欲しいと。
でも陽子は戸惑っていた。
いくら何でもまだそれは早過ぎると。
「順番が逆になりましたが、これより八番札所西善寺へ向かいます」
案内人が声を掛ける。
お遍路の一行はそれぞれの荷物を確認しあってから、次の目的地へと歩き出した。
「コミネモミジ色付いていれば良いわね」
「今回の最大の見所だものね」
皆口々に樹齢約六百年と言われるコミネモミジと呼ばれるカエデを話題にしながらの出発した。
「コミネモミジって?」
陽子が尋ねる。
「行ったことないから知らないんだけど、でっかいらしいよ」
「ふーんそうなんだ。ねえ、行ってみようよー」
翼の腕にしがみ付きながら甘えるように言う陽子。
そのキュートな仕草に胸の奥が締め付けられる。
(あーヤバ過ぎるよ)
翼は途方に暮れていた。
「それではお嬢様。これから参りますか?」
翼は高なる思いをやっと隠して、陽子の手を取り跪いた。
まるでエスコートする紳士のようだと思った。
その途端、翼はその指先に唇で触れたくなった。
それは何時か、フリースクールのお楽しみ会か何で見た映画のワンシーン。
あの時、ドキッとした。
あの感覚がずーっと忘れられずにいた。
今自分の仕草と重ねた。
(全てはこの日のためだったのか……)
翼はひたすら、陽子の言葉を待っていた。
陽子のハートが早鐘のように鳴り響いた。
言葉など……
忘れていた。
(あー神様! こんな可愛い恋人に巡り合わせて頂きましてありがとうございます)
今いる場所がお寺だと言うことさえ忘れて、陽子は空を見上げた。
側にあるのは、赤い被り物の地蔵菩薩。
その横の観音様に手を合わせ、陽子は二人の行く末を願った。
「お若いのに随分熱心ですね」
一行の一人が声を掛けて来た。
「おめでた?」
陽子の耳元で囁く。
陽子はビックリして女性を見つめた。
「だって此処確か、安産祈願の観音様よ」
「えっえー!?」
陽子は首を振りながら後ずさりをした。
でもその後で陽子はもう一度祈りを捧げた。
出来るなら……
翼との子供が欲しいと。
でも陽子は戸惑っていた。
いくら何でもまだそれは早過ぎると。
「順番が逆になりましたが、これより八番札所西善寺へ向かいます」
案内人が声を掛ける。
お遍路の一行はそれぞれの荷物を確認しあってから、次の目的地へと歩き出した。
「コミネモミジ色付いていれば良いわね」
「今回の最大の見所だものね」
皆口々に樹齢約六百年と言われるコミネモミジと呼ばれるカエデを話題にしながらの出発した。
「コミネモミジって?」
陽子が尋ねる。
「行ったことないから知らないんだけど、でっかいらしいよ」
「ふーんそうなんだ。ねえ、行ってみようよー」
翼の腕にしがみ付きながら甘えるように言う陽子。
そのキュートな仕草に胸の奥が締め付けられる。
(あーヤバ過ぎるよ)
翼は途方に暮れていた。
「それではお嬢様。これから参りますか?」
翼は高なる思いをやっと隠して、陽子の手を取り跪いた。
まるでエスコートする紳士のようだと思った。
その途端、翼はその指先に唇で触れたくなった。
それは何時か、フリースクールのお楽しみ会か何で見た映画のワンシーン。
あの時、ドキッとした。
あの感覚がずーっと忘れられずにいた。
今自分の仕草と重ねた。
(全てはこの日のためだったのか……)
翼はひたすら、陽子の言葉を待っていた。
陽子のハートが早鐘のように鳴り響いた。
言葉など……
忘れていた。
(あー神様! こんな可愛い恋人に巡り合わせて頂きましてありがとうございます)
今いる場所がお寺だと言うことさえ忘れて、陽子は空を見上げた。