殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
やっと落ち着きを取り戻した陽子は、微笑みながら翼に乗った振りをしてその手の上に手を重ねた。
明智寺から出た二人は、何気なく真っ直ぐ進んだ。
でもその道は、セメント工場へ続いていた。
二人は慌てて元来た道へ向かった。
陽子はその道が再善寺への近道だと思っていたのだった。
あの切り丸太の丁字路から繋がる道があるとばかり思っていたのだった。
結局二人はヤマセミの道標を目指して、明智寺手前の丁字路を曲がり真っ直ぐに歩き出した。
「わあ、このカワセミ可愛いわね」
そう言いながらお遍路の二人が道標の前で足を止めていた。
先ほど明智寺にいた人とは違うようだ。
「あれっ、それ確かヤマセミよ」
もう一人が得意そうに言う。
翼は陽子と出逢った日の会話を思い出していた。
丁度其処へ地元の人が通りかかった。
「スイマセン。お伺いしたいことがあるのですが」
翼は思い切って、その人に声を掛けた。
「この道標の上に付いている鳥をヤマセミだと聞いたのですが……」
「ヤマセミ? 違う違う。これはカワセミだよ」
その人は言った。
それを聞いてた陽子がニンマリ笑った。
してやったりと言いたそうな陽子。
小さくガッツポーズの真似をする。
それを見せつけられてシュンとする翼。
事情を知らない通りすがりのおじさんは、二人を見比べてキョトンとしていた。
「コミネモミジってそう言えば新聞記事で見たことがあるわ」
又歩き出した二人。
場を繕うように陽子が言った。
「そうだろう。有名みたいだからな」
翼もやっと機嫌を治したような振りをした。
実は翼は拗ねてもいなかった。
陽子が余りに楽しそうだったので、それに乗った振りをしていただけだった。
「良かった。でも翼、拗ねた時とっても可愛かった」
顔を赤らめながら陽子が言う。
(このまま……拗ねて甘えようかな? でも、どうやったらいいのか解らない)
翼は陽子と恋人同士になれた喜びに体の芯から震えながら、悪巧みしていた。
明智寺から出た二人は、何気なく真っ直ぐ進んだ。
でもその道は、セメント工場へ続いていた。
二人は慌てて元来た道へ向かった。
陽子はその道が再善寺への近道だと思っていたのだった。
あの切り丸太の丁字路から繋がる道があるとばかり思っていたのだった。
結局二人はヤマセミの道標を目指して、明智寺手前の丁字路を曲がり真っ直ぐに歩き出した。
「わあ、このカワセミ可愛いわね」
そう言いながらお遍路の二人が道標の前で足を止めていた。
先ほど明智寺にいた人とは違うようだ。
「あれっ、それ確かヤマセミよ」
もう一人が得意そうに言う。
翼は陽子と出逢った日の会話を思い出していた。
丁度其処へ地元の人が通りかかった。
「スイマセン。お伺いしたいことがあるのですが」
翼は思い切って、その人に声を掛けた。
「この道標の上に付いている鳥をヤマセミだと聞いたのですが……」
「ヤマセミ? 違う違う。これはカワセミだよ」
その人は言った。
それを聞いてた陽子がニンマリ笑った。
してやったりと言いたそうな陽子。
小さくガッツポーズの真似をする。
それを見せつけられてシュンとする翼。
事情を知らない通りすがりのおじさんは、二人を見比べてキョトンとしていた。
「コミネモミジってそう言えば新聞記事で見たことがあるわ」
又歩き出した二人。
場を繕うように陽子が言った。
「そうだろう。有名みたいだからな」
翼もやっと機嫌を治したような振りをした。
実は翼は拗ねてもいなかった。
陽子が余りに楽しそうだったので、それに乗った振りをしていただけだった。
「良かった。でも翼、拗ねた時とっても可愛かった」
顔を赤らめながら陽子が言う。
(このまま……拗ねて甘えようかな? でも、どうやったらいいのか解らない)
翼は陽子と恋人同士になれた喜びに体の芯から震えながら、悪巧みしていた。