殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
陽子の言葉は翼にとって刺激的だった。
だからもっと陽子を知りたいと思った。
陽子は翼に温もりを届けたいと思った。
癒されない心を包んであげたいと思った。
陽子は翼と……
翼は陽子と共に成長したいと願っていた。
坂を下った先にやっと八番への道標。
次の丁字路を左に折れる。
次の道標は高架橋の下にあった。
それを頼りに道を渡った。
暫く行くと又川がある。
名前が違う。
「うぶがわだって」
「うぶがわ? 可愛らしい名前ね」
陽子が微笑む。。
うぶがわの先の道に又川がある。
城谷沢とあった。
「此処も沢か」
陽子が言う。
「そうだね。さっきのがこのまさわ今度が……」
翼が言いかけたら、陽子が頭を撫でた。
「良く覚えていたわね。偉い偉い」
陽子が悪戯っぽく笑った。
「こらーっ! 又子供扱いして」
翼が拳を握り締める。
陽子は大笑いをしながら歩みを速くした。
「横瀬には一体幾つ川があるんだろう?」
「一体幾つ集まって横瀬川になるのかしらね?」
二人はやがては荒川と合流する横瀬川に思いを馳せていた。
城谷沢の先の急な坂道を登りきった先にコミネモミジの八番札所があった。
お寺の入口で陽子は入っても良いものか迷っていた。
《当山は霊場につき、物見遊山の者、酒気帯びの者境内に入ることを禁ず》
そう書かれていたからだった。
「物見遊山って、きっと私達のことよね」
陽子の言葉を聞いて、翼が手を離した。
慌てて陽子が翼を見る。
「これなら良いんじゃない?」
翼が目配せする。
陽子は頷きながら門をくぐった。
目の前にコミネモミジ。
寺の庭一面に広がる。
その堂々した圧倒感。
「凄いね〜!!」
言葉はそれ以外見当たらない。
山門をくぐり抜けると、眼下にそびえ立つコミネモミジ。
その圧倒的な存在感で身動きの取れない二人。
やっとの思いで石段を下りる。
《物見遊山》と言う言葉が陽子を捕らえて離さない。
石段を下りきった所に緑色に光る撫で佛。
陽子は頭を撫でながら、翼の手を重ねた。
『翼の方が頭が良い』
忍の言葉を思い出したからだった。
『出来れば大学に行かせてやりたい』
そう勝も言っていた。
陽子は機会があったら、そのことを翼に言おうと決めていた。
だからもっと陽子を知りたいと思った。
陽子は翼に温もりを届けたいと思った。
癒されない心を包んであげたいと思った。
陽子は翼と……
翼は陽子と共に成長したいと願っていた。
坂を下った先にやっと八番への道標。
次の丁字路を左に折れる。
次の道標は高架橋の下にあった。
それを頼りに道を渡った。
暫く行くと又川がある。
名前が違う。
「うぶがわだって」
「うぶがわ? 可愛らしい名前ね」
陽子が微笑む。。
うぶがわの先の道に又川がある。
城谷沢とあった。
「此処も沢か」
陽子が言う。
「そうだね。さっきのがこのまさわ今度が……」
翼が言いかけたら、陽子が頭を撫でた。
「良く覚えていたわね。偉い偉い」
陽子が悪戯っぽく笑った。
「こらーっ! 又子供扱いして」
翼が拳を握り締める。
陽子は大笑いをしながら歩みを速くした。
「横瀬には一体幾つ川があるんだろう?」
「一体幾つ集まって横瀬川になるのかしらね?」
二人はやがては荒川と合流する横瀬川に思いを馳せていた。
城谷沢の先の急な坂道を登りきった先にコミネモミジの八番札所があった。
お寺の入口で陽子は入っても良いものか迷っていた。
《当山は霊場につき、物見遊山の者、酒気帯びの者境内に入ることを禁ず》
そう書かれていたからだった。
「物見遊山って、きっと私達のことよね」
陽子の言葉を聞いて、翼が手を離した。
慌てて陽子が翼を見る。
「これなら良いんじゃない?」
翼が目配せする。
陽子は頷きながら門をくぐった。
目の前にコミネモミジ。
寺の庭一面に広がる。
その堂々した圧倒感。
「凄いね〜!!」
言葉はそれ以外見当たらない。
山門をくぐり抜けると、眼下にそびえ立つコミネモミジ。
その圧倒的な存在感で身動きの取れない二人。
やっとの思いで石段を下りる。
《物見遊山》と言う言葉が陽子を捕らえて離さない。
石段を下りきった所に緑色に光る撫で佛。
陽子は頭を撫でながら、翼の手を重ねた。
『翼の方が頭が良い』
忍の言葉を思い出したからだった。
『出来れば大学に行かせてやりたい』
そう勝も言っていた。
陽子は機会があったら、そのことを翼に言おうと決めていた。