殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
「あっ! 見て見て」
陽子がコミネモミジを下から見上げて興奮していた。
翼が陽子の視線の先を追った。
「あっ、色付いている」
翼も雄々しい枝の一部分から目が離せなくなった。
「これが二人の愛の成せるワザだ」
翼が感慨深げに言う。
陽子は頷いた。
可愛い翼。
陽子は急に抱き締めたくなった。
でも此処は霊場。
ただ耐えるしかなかった。
樹齢六百年と言われるコミネモミジ。
その堂々とした姿に感銘を受け、二人は暫し無言でいた。
「ねえ陽子。此処も六地蔵だね。何か意味でもあるなかな?」
耐えきれなくなったのか遂に翼が言った。
陽子も気にはなっていた。
コミネモミジの下に整列している地蔵菩薩が……
「確か六道とか?」
「六道!?」
「そう、餓鬼道でしょう。畜生道でしょう。それから確か人間道も……」
「人間道も?」
「そう、もしかしたら人間が一番罪作りなのかも知れないな」
陽子はポツリと呟いた。
今歩いている道が、やがて国道299号線に繋がることを二人は確信していた。
でも、歩いても歩いてもそれらしい道が出て来ない。
次第に不安になった。
「この道で良いのかな?」
翼が口火を切った。
「多分……」
陽子が不安そうに言う。
二人は周りを見回した。
前も後ろも誰も歩いてもいなかった。
さっきまで八番札所西善寺にいたお遍路さん達もいなくなっていた。
陽子は翼の手を強く握り締めた。
びっくりして翼が陽子を見つめた。
「見て、この道の先砂利道になってる」
今にも泣きそうな陽子。
良く見るとその砂利道は山へと続いていた。
「やっぱり引き返そう」
翼はそう言うと、陽子の手を掴んで今来た道を引き返した。
「これも勇気のいることね」
陽子は翼の腕にしがみついた。
コミネモミジの寺の脇を通り過ぎる時、お墓参りだと思える人がいた。
手には線香と花束。
「お墓があるの?」
「きっとあるんだろな」
言ってはみたけど気になった。
二人は後を付いて行くことにした。
駐車場の端のトイレの脇の小道を暫く行くと、小じんまりとした墓所が現れた。
かなりの回り道だった。
でも思いがけない発見に陽子は興奮していた。木戸からコミネモミジが見えていたからだった。
陽子がコミネモミジを下から見上げて興奮していた。
翼が陽子の視線の先を追った。
「あっ、色付いている」
翼も雄々しい枝の一部分から目が離せなくなった。
「これが二人の愛の成せるワザだ」
翼が感慨深げに言う。
陽子は頷いた。
可愛い翼。
陽子は急に抱き締めたくなった。
でも此処は霊場。
ただ耐えるしかなかった。
樹齢六百年と言われるコミネモミジ。
その堂々とした姿に感銘を受け、二人は暫し無言でいた。
「ねえ陽子。此処も六地蔵だね。何か意味でもあるなかな?」
耐えきれなくなったのか遂に翼が言った。
陽子も気にはなっていた。
コミネモミジの下に整列している地蔵菩薩が……
「確か六道とか?」
「六道!?」
「そう、餓鬼道でしょう。畜生道でしょう。それから確か人間道も……」
「人間道も?」
「そう、もしかしたら人間が一番罪作りなのかも知れないな」
陽子はポツリと呟いた。
今歩いている道が、やがて国道299号線に繋がることを二人は確信していた。
でも、歩いても歩いてもそれらしい道が出て来ない。
次第に不安になった。
「この道で良いのかな?」
翼が口火を切った。
「多分……」
陽子が不安そうに言う。
二人は周りを見回した。
前も後ろも誰も歩いてもいなかった。
さっきまで八番札所西善寺にいたお遍路さん達もいなくなっていた。
陽子は翼の手を強く握り締めた。
びっくりして翼が陽子を見つめた。
「見て、この道の先砂利道になってる」
今にも泣きそうな陽子。
良く見るとその砂利道は山へと続いていた。
「やっぱり引き返そう」
翼はそう言うと、陽子の手を掴んで今来た道を引き返した。
「これも勇気のいることね」
陽子は翼の腕にしがみついた。
コミネモミジの寺の脇を通り過ぎる時、お墓参りだと思える人がいた。
手には線香と花束。
「お墓があるの?」
「きっとあるんだろな」
言ってはみたけど気になった。
二人は後を付いて行くことにした。
駐車場の端のトイレの脇の小道を暫く行くと、小じんまりとした墓所が現れた。
かなりの回り道だった。
でも思いがけない発見に陽子は興奮していた。木戸からコミネモミジが見えていたからだった。