殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 「大丈夫翼!」
陽子はすぐに翼の元に駆けつけて、縮こまった翼の体を温めていた。


翼は驚いて目を丸くした。

幽霊の正体はナント陽子だったのだ。

これが驚かないでいられようか?
翼は半ば腰砕け状態になった。


(まさか……まさか、陽子がこんなに大胆だったとは!? それでも嬉しい!)

素直にそう思った。

でもそれを計画したのが勝だとは思わない翼。


(ああ、どうしよう。僕のためにこんなことまでするなんて……。お祖父ちゃんに何て言えば……)

翼は戸惑っていた。


陽子も成り行き上、裸に近い翼を抱き締めていた。


翼の体よりも、自分の方が冷えていることさえも気付かずにいたのだ。




 翼は、シャワールームから顔だけ出して勝の様子を確認した。

幸いなことに勝は眠っていた。
しや、本当は眠た振りをしていただけだった。

翼も陽子もただ踊らさせられていただけなのだ。


「とりあえず、身を隠していて。見つかったら大変だから」

翼の言葉に陽子は頷いた。


(そうよね。もし看護士さんにでも見つかったら……)

後ろめたさでいっぱいだった陽子。

その時陽子も翼もまだ勝の悪巧みを知らず、互いを守ることしか考えていなかったのだ。




 翼は陽子を病室に移すことが一番の得策だと思った。

陽子の体が冷え切っていることは百も承知だ。
だからと言って一緒にシャワーを浴びる訳にはいかなかったのだ。




 陽子は一旦シャワールームから出て、付き添い用のベッドの上に腰を降ろしていた。


勝が眠っているのを確認した翼が、其処で待つように言ったからだった。


結局翼が出て来た後、陽子もシャワーを浴びることになった。

翼を待つ間、心は燃えていた。
でもそれとは別に体は……
冷え切ったどころではなかったのだ。

陽子の体は芯まで冷えて、唇は紫色になっていた。




 一応勝負下着は持って来ていた。
それがあのポーチに入っていた、乙女のヒ・ミ・ツだった。

陽子はそれを握り締めながら、翼が出て来るのをガチガチと歯を打ち鳴らしていた。


(一応女の子のたしなみだものね)

そう言い聞かせる。
でも本当は恥ずかしい。


(ねえ、おじ様……どうしたらいい?)

陽子は勝にすがりつきたくなっていた。




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