殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 勝は疲れたらしく、静かに目を閉じていた。


翼はそんな勝を気にしながら陽子がシャワールームから出て来るのを待っていた。

縮こまった体を抱き締めてくれた時、翼は興奮していた。
だから陽子の体の冷たさに気付かなかったのだ。

翼は反省していた。
とりあえず自分が先にシャワーを浴びてしまったことを。


『首筋に熱めのシャワーを掛けると温まるよ』

翼はそう言った。
それが唯一の罪滅ぼしだった。

それはさっき偶然に見つけた技だった。

寒い思いをして、かがんた体が徐々に温まっていくのを体感したからだった。

でも、本当は早く出てきてほしかったのだ。

翼は少し後悔をしながら、冷蔵庫にあるケーキを眺めていた。




 その時、病室のドアが開いた。


入って来たのは看護士だった。


「あれっ? 恋人だと言う陽子さんは?」

その思いもよらない言葉に翼は声を失った。


慌てて勝のベッドを見る。

其処には、笑いを堪えている勝がいた。


「――ったく、お祖父ちゃんの仕業か!?」

呆れた様に見ている翼を後目に、勝はまだ大笑いをしていた。




 「ねえ翼。おじ様まだグッスリ寝ている?」

勝の様子を知りたくて、シャワールームから陽子が顔だけ出した。


――ドキッ!

翼が体が反応する。

その可愛らしい仕草に翼は燃えていた。


――ドキッ!! ドキッ!!!!

翼はもう押さえが効かなくなっていた。




 翼がシャワールームの扉を開ける。


「こっちにおいで」
翼は陽子の手を引いて、シャワールームへ戻って行った。


一瞬陽子は戸惑った。
でも翼に従った。


覚悟は決めていた。
でも勝の前では嫌だったのだ。


翼は勝が望んだ通りにしたいと思っていた。

でもやはり、勝の前ではイヤだったのだ




 「陽子が悪いんだ」
呟きながらキスをする。


その優しい唇……

陽子は翼に身を委ねた。


最初は軽いキス。
翼は息継ぎの度に愛の言葉を囁いた。

何度も何度も戻ってくるキスは次第に深くなる。
翼は陽子に溺れていた。


ふと、夜祭りデートの木村家の陽子の部屋の出来事を思い出していた。


戸惑いながらも、燃え上がった恋と言う名の炎。

消す術も知らずにただ其処に居た。



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