殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 そして今日は、陽子の二十歳の祝いの日だった。

秩父では毎年、秩父宮記念文化会館で成人式が執り行われる。
でも今改修中で、文化体育センターでの式典になった。


数年前には酒に酔った新成人による暴走が問題になったこともある。
でも今年は至って平穏な幕開けになった。


実は陽子の誕生日は三月で、まだ二十歳にはなっていなかったのだけど。


遥か以前は成人式の日までに二十歳になった人が対象だったようだ。
でも何時の間にか学年別になったのだ。
だからまだ二十歳になっていない陽子も其処にいたのだった。




 高校三年生の冬休み。

本当なら、卒業に向けて様々な活動に没頭しなければならないはずなのに、推薦入学の決まっていた陽子は受験勉強する訳でもなく。
ましては自動車の運転免許も取ろうとしていなかった。

その時陽子は十七歳。
普通、免許は十八歳から交付だ。
でも誕生日過ぎてから試験を受ければいいそうだ。
だから高三で取得する人が多いのだ。

就活にも有利らしい。
でも陽子にはそんな考えはなかった。
地元の保育園に就職するつもりだったからだ。
陽子は本当は節子の望み通りに中川周辺の保育園を探すつもりでいたのだ。




 それでも、免許の一番簡単な取り方はクラスメートに教えてもらっていた。

それはマニュアルではなく、オートマ限定で申込むことだった。
マニュアル車は操作が難しいけどオートマチック車は簡単らしいのだ。

まずオートマで取って、後で限定解除すれば良いらしい。

教習所によって料金は違うらしいが、技能講習数時間とか言っていた。




 だけど、西武線で通っている内に気が変わった。
通過駅の近くにある自動車学校が気になり、遂に入学してしまったのだった。


だから、どうしてもお礼がしたかったのだ。



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