殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
白いチューリップ
「おじさん、久しぶり」
病室の扉が開き、女性が花束を抱えて入って来た。
翼が子供の頃。
何度か会ったことのある薫の親友、田中恵だった。
「薫から又入院してると聞いてびっくりしたわよ」
恵はそう言いながら、勝の寝ていたベッドに引き寄せられた。
「本当にもう……」
恵は泣いていた。
病院側の都合で入退院を繰り返される患者。
それは保険点数のせいだと薫も嘆いていたのだった。
薫のそんな優しさ面を知り、翼はホッとしていた。
「偶然ってあるのかな?」
恵は抱えていた花を勝に見せた。
「香の大好きだった白いチューリップがあったの。どんなに急いでいても、目に入るものね」
恵はそれを翼は渡した。
翼は花瓶を探すために病室から出た。
「ところで香のこと何か分かったの?」
恵の声が漏れている。
聞き耳を立てなくても自然に聞こえてくる。
「香の子供が産まれていたらきっとあの子ぐらいね」
恵は独り言のようにつぶやいていた。
「お祖父ちゃん、香さんって誰? そう言えば、母さんも白いチューリップ大好きなんだよね」
恵の帰った後で、何気なく翼が言う。
その時、勝の顔色が変わった。
「薫が白いチューリップをか?」
勝が確かめるように聞く。
翼は頷いた。
「そんな馬鹿な、あの子は確か……」
白いチューリップを見つめながら物思いに更ける勝。
その後勝が急変した。
急いで呼び鈴を鳴らす翼。
主治医が慌てて駆け付けて来た。
その態度を見ていた翼は青ざめていた。
「今夜が峠ですね。家族の方に連絡出来ますか?」
廊下の隅で主治医は言う。
翼は慌てて公衆電話に走った。
「陽子さんいるか?」
苦しい息の中、勝は陽子を呼び寄せる。
「翼を頼む!」
陽子が大きく頷いた。
「せめて、結婚式までは生きていたかった」
勝は泣いている。
陽子は翼の手を取り、一緒に勝の手に重ね合わせた。
「お父さん!」
急を聞いて薫が駆けつけてくる。
何時もと違い薄化粧な薫。
自慢のヘアースタイル・前下がりボブが揺れる。
「香? か?」
勝は目を見開いた。
薫は慌てて髪をいじった。
「やあね。私は薫よ。そうでしょうみんな?」
薫は集まった親戚連中に向かって声を掛けた。
一同頷いた。
病室の扉が開き、女性が花束を抱えて入って来た。
翼が子供の頃。
何度か会ったことのある薫の親友、田中恵だった。
「薫から又入院してると聞いてびっくりしたわよ」
恵はそう言いながら、勝の寝ていたベッドに引き寄せられた。
「本当にもう……」
恵は泣いていた。
病院側の都合で入退院を繰り返される患者。
それは保険点数のせいだと薫も嘆いていたのだった。
薫のそんな優しさ面を知り、翼はホッとしていた。
「偶然ってあるのかな?」
恵は抱えていた花を勝に見せた。
「香の大好きだった白いチューリップがあったの。どんなに急いでいても、目に入るものね」
恵はそれを翼は渡した。
翼は花瓶を探すために病室から出た。
「ところで香のこと何か分かったの?」
恵の声が漏れている。
聞き耳を立てなくても自然に聞こえてくる。
「香の子供が産まれていたらきっとあの子ぐらいね」
恵は独り言のようにつぶやいていた。
「お祖父ちゃん、香さんって誰? そう言えば、母さんも白いチューリップ大好きなんだよね」
恵の帰った後で、何気なく翼が言う。
その時、勝の顔色が変わった。
「薫が白いチューリップをか?」
勝が確かめるように聞く。
翼は頷いた。
「そんな馬鹿な、あの子は確か……」
白いチューリップを見つめながら物思いに更ける勝。
その後勝が急変した。
急いで呼び鈴を鳴らす翼。
主治医が慌てて駆け付けて来た。
その態度を見ていた翼は青ざめていた。
「今夜が峠ですね。家族の方に連絡出来ますか?」
廊下の隅で主治医は言う。
翼は慌てて公衆電話に走った。
「陽子さんいるか?」
苦しい息の中、勝は陽子を呼び寄せる。
「翼を頼む!」
陽子が大きく頷いた。
「せめて、結婚式までは生きていたかった」
勝は泣いている。
陽子は翼の手を取り、一緒に勝の手に重ね合わせた。
「お父さん!」
急を聞いて薫が駆けつけてくる。
何時もと違い薄化粧な薫。
自慢のヘアースタイル・前下がりボブが揺れる。
「香? か?」
勝は目を見開いた。
薫は慌てて髪をいじった。
「やあね。私は薫よ。そうでしょうみんな?」
薫は集まった親戚連中に向かって声を掛けた。
一同頷いた。