殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 翼は翔の行動が気掛かりだった。

陽子に対して又何か言いそうで気が気でなかった。


悩みに悩んだ末、思いっ切って生家を訪ねてみることに決めた翼。

相変わらずの細い路地。

秘密基地へと上がる坂道。

全てを懐かしく感じる。

翼は実家へ行く前に自転車で走り回ってみた。

本当の目的は父母に遭わないようにするためだった。

翔と二人だけで話をしたいと思ったからだった。


先ず家の周りを見て翔の自転車があるのを確かめた。

自転車は玄関の脇の軒先にあった。

所謂犬走りと言われてる所で、其処に置けば濡れないで済んだからだ。

翼はその後ろに自分の自転車を置いて、恐る恐る家に入った。




 部屋に入った途端驚いた。

大型テレビ、ブルーレイレコーダー。

翔の部屋には最新家電が並んでいた。

それと全身が写る姿見。


(アイツ、これでチェックしているのか?)

翼はお洒落な翔を思い出していた。

でも翼はその姿見に違和感を感じた。

双子だからなのか解らないが、もう一人の自分が鏡の中に居いるように錯覚したのだった。

翼ら少し冷静になって、周りを見渡した。


此方来る前に覗いたかっての自分の部屋は物置になっていた。

あの勉強机と一体化したベッドの上にも荷物が積み上げられていた。
まるで、その存在を消すかのように……


(お母さんは僕が此処で暮らしていた事実を、封じ込めたいのだろうか?)


翼は現実を夢であってほしいと思いながら、窓際に寄っていった。


翔の机の上にオルゴールがあった。

派手好きな母が、翔のために企画したバースデーパーティー。

誕生日の一緒の翼も形だけ出席していた。

その時に、クラスメートが翼にくれた物だった。

みんなが帰った後、直ぐに母に取り上げられた物だった。




 懐かしくて蓋を開けた。
オルゴールがメロディーを奏でる。

その時翼は、オルゴールの底に何かが貼り付けられているのを見た。

そっと裏返してみる。


其処にあった物は折りたたみ式のサバイバルナイフだった。

翼は慌てて蓋を閉めた。

気付かれたのではないかと辺りを見回してドキッとした。

でもそれは翔の部屋に何時も置いてあった姿見だった。
翼はホッと安堵の胸を撫でおろした。




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