殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
西武秩父線、横瀬駅。
西武秩父駅方面からの上り電車が入ってくる。
ドアが開き、車中から木村陽子が手を振りながら降りてくる。
陽子は友人を西武秩父駅へ見送り、そのついでに一駅だけ付き合っていた。
それでもまだ話し足りないのか。
電車が走り去るまで、車窓越しに友人を見つめて手を振っていた。
陽子が横瀬駅に降りたのには訳があった。
駅から徒歩圏内に姉の堀内純子が夫の忍と暮らしていたからだった。
四・五段ある駅前の階段を下りると、丸太をくり抜いた花壇のある広場。
其処には色とりどりの花が咲いていた。
その先に国道につながる道がある。
左に行くと、純子と忍が勤めている町役場。
右に行くと線路。
陽子は迷わず右に行く。
今日は休日。
純子は確実に家に居るはずだった。
線路沿いを暫く歩いて行くと、秩父札所九番明智寺と八番西善寺への案内板。
真っ直ぐいくと西善寺。
左に行くと明智寺。
その通りを左に曲がる。
陽子の姉・純子は、十歳年の離れた町役場の上司・忍と大恋愛の末に結ばれて、明智寺の傍に住んでいた。
陽子は曲がり角にある、切り丸太の沢山置いてある花まみれの空き地が大好きだった。
此処へ来ると何故だか何時もホッとする。
仲良しだった姉に会える。
たったそれだけのことなのに……
初めて此処を訪れた時、目が点になった。
段違いで周りに並べられた丸太。
こんな利用法もあるのかと関心させられた。
太い丸太は切り抜かれ、花を植えるプランターにもなっている。
陽子は何時も横瀬の人のアイデアに関心しながらこの道を通っていたのだった。
それでも陽子の心は重かった。
慰めて貰おうとした草花が刈られてしまっていたからだった。
「――うーん、いけず」
そう呟いた後、又友人の帰って行った西武池袋方向に目をやる。
何時になく陽子は悄げていた。
この場所のせいだけないことと自覚はしていた。
西武秩父駅方面からの上り電車が入ってくる。
ドアが開き、車中から木村陽子が手を振りながら降りてくる。
陽子は友人を西武秩父駅へ見送り、そのついでに一駅だけ付き合っていた。
それでもまだ話し足りないのか。
電車が走り去るまで、車窓越しに友人を見つめて手を振っていた。
陽子が横瀬駅に降りたのには訳があった。
駅から徒歩圏内に姉の堀内純子が夫の忍と暮らしていたからだった。
四・五段ある駅前の階段を下りると、丸太をくり抜いた花壇のある広場。
其処には色とりどりの花が咲いていた。
その先に国道につながる道がある。
左に行くと、純子と忍が勤めている町役場。
右に行くと線路。
陽子は迷わず右に行く。
今日は休日。
純子は確実に家に居るはずだった。
線路沿いを暫く歩いて行くと、秩父札所九番明智寺と八番西善寺への案内板。
真っ直ぐいくと西善寺。
左に行くと明智寺。
その通りを左に曲がる。
陽子の姉・純子は、十歳年の離れた町役場の上司・忍と大恋愛の末に結ばれて、明智寺の傍に住んでいた。
陽子は曲がり角にある、切り丸太の沢山置いてある花まみれの空き地が大好きだった。
此処へ来ると何故だか何時もホッとする。
仲良しだった姉に会える。
たったそれだけのことなのに……
初めて此処を訪れた時、目が点になった。
段違いで周りに並べられた丸太。
こんな利用法もあるのかと関心させられた。
太い丸太は切り抜かれ、花を植えるプランターにもなっている。
陽子は何時も横瀬の人のアイデアに関心しながらこの道を通っていたのだった。
それでも陽子の心は重かった。
慰めて貰おうとした草花が刈られてしまっていたからだった。
「――うーん、いけず」
そう呟いた後、又友人の帰って行った西武池袋方向に目をやる。
何時になく陽子は悄げていた。
この場所のせいだけないことと自覚はしていた。